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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

野球部の伝統を引き継ぐために……大きくなる2年生の役割

 

部活動休止によるブランクを埋めるのは大変であるが、各校の野球部は伝統を守っていく


 人生で最もつらく「戻りたくない時間」を挙げるとすれば、球児だった高校1年生の今の時期である。

 毎朝、7時には学校へ行って、全面土のグラウンド整備を2面。丁寧にレーキをかけ、トンボでならす。すべて手作業で、気が遠くなる。授業が始まり、休み時間などで上級生(2、3年生)を見かければ、大声であいさつ。校舎内の移動は、常に猛ダッシュ。学食を使うことは許されず、登下校中にコンビニに寄ることもできない。練習後は応援練習。校歌、応援歌を絶叫して、夏の県大会本番に備える。その後、満足に手洗いもできないまま制服に着替えて帰宅するが、電車で座ってはいけない。かなりの異臭を放っていたはずだ。

 まだ、続く。上級生から「部則!」と指示されれば、10項目の部則を、10秒以内に言わないといけない。下級生(1年生)は常に周囲の目を気にする、プレッシャーの毎日である。「甲子園」を考える余裕もなかった。

 30年以上前の話で、今とは時代がまったく違う。理不尽な16歳の夏も、懐かしい思い出である。こうした上下関係は、技術向上にはつながらないかもしれないが、我慢して、耐えることも、必要な時間であったと確信している。野球部の慣習を知る上でも、貴重な時間であったと回顧できる。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、教育活動は停滞した。4月以降も学校休校により、部活動の休止が続いた。感染者数が多かった地域では6月以降、段階的に登校を再開しているが、部活動が通常の形に戻るまでには、かなりの時間がかかりそうだ。

 4月から約2カ月のブランクを、ある名門校の監督は嘆いた。6月1日、初めて3学年がそろってのミーティングを開いたほどである。

「どこも難しいとは思いますが、1年生は中学生のままです。ゴールデンウイーク明けまでには、いろいろと野球部のことを覚えるんですが……。今年はグチャグチャです(苦笑)」

 人と人との信頼関係と同様、部の基盤を築くのも大変だが、崩れるのは簡単だ。監督から部員への「教育」に加え、部員間にも独特な「世界」が存在。先輩から後輩への「指導」が次世代へ継承される部の「底力」になる。

 今夏は全国大会(甲子園)と地方大会が中止。最後の夏に、3年生の「花道」を準備しようと、全国の都道府県高野連の関係者は「独自大会」の開催へ向けて尽力している。

 3年生の心のケアが大事と言われるが、秋の新チームも控える。学校により異なるスタイル、長年の伝統を守るためにも、1年間の流れを知る2年生の役割が大きくなる。3年生をバックアップし、1年生を指導。例年ならば夏まで約4カ月ある引き継ぎ期間が、今年は半分以下しかない。あいさつの仕方、練習の流れ、ウォーミングアップ、シートノックの方法等……。限られた活動時間の中で、野球部のシキタリを伝えていく。1年生は2年生の言葉に真摯に耳を傾け、1日も早く本物の高校生に成長し、戦力になってほしい。そして、3年生を最高の形で送り出すのである。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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