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特殊技能を持ったプロフェッショナル

メジャー・リーガーもお手上げ! “魔球”を投げた星の王子様/特殊技能を持ったプロフェッショナル

 

プロ野球では勝ち負けがすべて。攻守走に卓越した選手の最高のプレーを楽しめるのが醍醐味だが、試合に貢献しているのは表層的な技だけではない。激しくしのぎを削っていた決して脚光を浴びることのない特殊技能を持ったプロフェッショナルたちを紹介しよう。

「僕は真っすぐで勝負するタイプ」



「あのボール」が来るのは分かっていた。しかし、バットは無情にも空を切り、まともにはじき返すことができない。歯ぎしりは止まらず、いつも悔しさともどかしさが募った。多くの打者にとって、細身の甘いマスクで「星の王子様」と称されたサウスポーの星野伸之は、70〜80キロの超スローカーブという“魔球”を持つ天敵だった。

 南海(後にダイエー)のトニー・バナザードは、阪急(後にオリックス)の星野について聞かれると、いつも「顔を見るのも嫌」とため息をついた。エクスポズやホワイトソックスなど本場メジャー・リーグ(MLB)で1000試合以上に出場。しかし、バットコントロールには定評があった誇り高きメジャー・リーガーをもってしても、星野のスローカーブの前には為す術がなかった。

 ボールの曲がり際を狙ったり、ギリギリまでタメをつくったりと、対策に頭を悩ませた。スイッチヒッターということもあり、左右に打席を変えて挑戦。だが、どうしてもジャストミートできなかった。

 カーブを3球連続で空振りした直後、バナザードが自らのバットをヒザでへし折り、頭から湯気を出しながらベンチに引き揚げる光景もよく見られた。お手上げポーズで打席に入り、バットを逆さまに構えたこともあった。

 バッテリーを組んだ中嶋聡が難なく素手でキャッチし、マウンドに投げ返したこともあるほどの“遅球”。しかし、ブレーキを利かせて落ちてくる星野のカーブは、打者を一瞬浮き上がって落ちてくるかのような錯覚に陥らせた。特殊なヒジと手首の使い方のせいで、リリースポイントが分からない。当時、バナザードは「ボールがふっと消える感じ」と表現している。

 星野の投球パターンは主に直球とカーブのコンビネーションだ。真っすぐは最速130キロそこそこ。だが、小さなテークバックから微妙に力の入れ具合を変えて投げるため、打者は思うようにスイングができなかった。独特なフォームと緩急を巧みに駆使した芸術的な投球術が、厄介な魔球の威力を倍増させた。

 現役時代の星野は、「カーブピッチャー」と呼ばれることを良しとしなかった。「僕は真っすぐで勝負するタイプだと思っている」という言葉を実証するかのように、一筋縄にはいかない真っすぐで詰まらせ、打者のバットを折ることもできた。西武の主砲を務めた清原和博は、「表示される球速が信じられない。カーブもすごいけど、僕にとって本格派の投手」と強調した。

打者を幻惑する名人



 野村克也が「ピッチャーはスピードだけじゃ勝てない。一流になれるかどうかはコントロールに懸かっている」と口グセのように繰り返したように、星野は制球力も抜群だった。打者の打ち気を誘いながら絶妙にタイミングを外し、コーナーワークも抜群。時にはズバッとストレート勝負するクレバーな投法でプロ19年間で2041三振を奪い、通算176勝をマークした。

 星野のスタイルに重なる左腕投手は多い。ダイエー(後にソフトバンク)と巨人でプレーした杉内俊哉は、大きく弧を描いて落ちるカーブとチェンジアップを武器にプロ通算17年で142勝を挙げた。

 楽天の四番打者を務め、セ・パ両リーグで史上3人目となる本塁打王のタイトルを獲得した山崎武司は、どうしても杉内のカーブを打てなかった。カーブに意識を置くと、ゆったりとしたフォームからキレのあるストレートが来る。山崎は「杉内の投げる試合は、正直出場したくない。フォームが崩れ、次の試合にも悪い影響が残る」と漏らした。

 40歳で迎えた19年目、高津臣吾監督から不惑の開幕投手に指名されたヤクルト石川雅規も、カーブ、シンカーなど一級品の変化球が持ち味だ。左肩痛から復活し、昨季2年ぶりの勝利を飾ったソフトバンクの和田毅は、縦横自在の変化を見せるスライダーが得意。2人の左腕も星野同様、ボールの出どころが分かりにくいフォームとボールの緩急で打者を幻惑する名人だ。

 一流投手は伝家の宝刀と呼ばれる変化球を持つ。しかし、球速では測れない真っすぐを速く見せるよう腐心しているのが共通点だ。打者に向かっていく闘争心が魔球を生かし、白星を重ねるための支えとなっている。

写真=BBM
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