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大学野球リポート

秋に完全優勝するために――早大ナインに「練習常善」を植え付ける小宮山悟監督

 

体調管理の難しさ


早大・小宮山悟監督は部訓の一つである「練習常善」を、学生たちに植え付けている(写真左は2年生・中川卓也=大阪桐蔭高)


 全国に26ある大学野球連盟で春季リーグ戦の「中止」を発表していないのは、東京六大学、関西学生、関西六大学の3連盟である。

 関西六大学は7月上旬、関西学生は8月9日、東京六大学は8月中旬の開幕を目指している。神宮球場を舞台とする東京六大学は、1試合総当たりのリーグ戦開催を模索。各校5試合の計15試合で、仮に1日3試合が組まれれば、5日間で全日程を消化する短期決戦だ。

「春」の閉幕から約1カ月後の9月19日には秋季リーグ戦の開幕が控えている。過去に経験のない「春季」扱いの夏のリーグ戦。例年ならば、この時期はキャンプ期間を経て、オープン戦で実戦経験を重ねている段階だ。かつてない調整と向き合わなくてはならない。

 早大は3月28日以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大学からの要請により活動を自粛していた。緊急事態宣言が解除され、6月8日から通常練習を再開。感染防止に最大限の配慮しながら、練習拠点の安部球場(東京都西東京市)で汗を流している。

 就任2年目の早大・小宮山悟監督は、夏までの過ごし方を学生たちに考えさせてきた。主将・早川隆久(4年・木更津総合高)は「春の代わりとなる5試合を圧倒して優勝し、相手に嫌な印象を持たせて秋を開幕し、連覇し、11月の明治神宮大会も優勝するというビジョンを描いています」と語る。チームリーダーが言う理想論に、指揮官は待ったをかけた。

「真夏の5連戦。本来のレギュレーションとはかけ離れたものを、学生がどうこなしていくか。しかも、4月から6月までの活動自粛期間がありイレギュラー。8月にピークを持ってきたところで、9、10月にもコンディションを維持できるか? そんな甘いものではない。体が動かなくなるのは目に見えている」

 天皇杯をかけたリーグ戦である以上、全力を尽くすことは当然である。1競技につき1つの天皇杯。今春の開幕延期により、あらためて東京六大学野球に下賜されている歴史的背景と、価値観を感じる機会となったはず。とはいえ、8月に照準を合わせることだけに専念すれば、秋にも影響が出てしまう。小宮山監督は「この公式戦の位置づけを考え、秋に向けてどういう思いで臨むのか」と強調している。

 大学野球は4、5月の春季と9、10月の秋季リーグ戦という年間サイクルだ。プロ入りした多くの選手は毎年、半年以上に及ぶ長丁場のシーズンの「壁」ぶつかる。つまり、体調管理の難しさと直面する。NPB通算117勝右腕はその事情を熟知しているだけに、無理をさせたくない。今回、秋の日本一を目指すのであれば、8月から11月まで4カ月のシーズン。小宮山監督には学生たちの意気込みは十分、伝わっている。「目指すところはどこなんだ、ということ。秋に勝ち点5の完全優勝をするため、理解した上で日々を過ごしていかないといけない」と冷静に語る。

2カ月の空白で振り出しに


 そこで、何が大事なのかと言えば「練習」にほかならない。小宮山監督は早大野球部のあるべき姿について「練習常善」と説いた。代々に継承される、6つある部訓の一つである。

「安部磯雄先生(早大野球部初代部長)、飛田穂洲先生(同初代監督)から教わってきたものとは、試合のために活動しているのではない、ということです。日々、自己研鑽に努め、今できるベストを尽くす。グラウンドでの鍛錬は練習で得る。それが最も尊いもの。活動の成果を確認するのが試合です。川口(浩)先生(野球部長)からも『リーグ戦があるかないか分からない中でも、練習はできる』と。活動自粛期間中も『学ぶ場所である』安部寮を解散することなく、守ってくれました」

 活動自粛期間の約2カ月、小宮山監督は「自らを律することができるか?」を求めた。野球部合宿所である安部寮の寮生の選手24人は不要不急の外出を控える中、可能な限りで体を動かしてきた。寮生以外にも「自律」を指示してきた。6月8日に活動再開。要求が高い小宮山監督からすれば、必ずしも、納得できる練習の動きではなかった。テクニカルを追求しているのではく、姿勢の面だという。

「状況が状況なので……。やむを得ないという言葉はあまり使いなくないですが、積み上げてきたものが崩れた。2018年11月から(次期監督として)指導をスタートし、19年1月に監督就任。この1年余りで、早稲田大学野球部とはこういうものだ、と少しずつ良くなってきた自負があったんですが……。教え込んできたものがこの2カ月の空白で……。自粛前と同じような状況に、引き戻す仕事をしていかないといけません。振り出しに戻った……。また、1年かかるかもしれない」

 早大には「安部球場=神宮球場」という伝統がある。野村徹元監督が率いていた1999年から04年、当時の東伏見グラウンドには、ただならぬ空気が流れていた。02年春から03年秋までリーグ戦4連覇。この輝かしい実績は、日々の厳しい練習の成果にほかならない。小宮山監督は就任以来、このムードに回帰させようと学生たちに訴えてきた。

「私は大学4年間、100点満点ではないかもしれないが、ボールに対する取り組み方、自らを律することができたと胸を張って言える」

 芝浦工大柏高(千葉)から2年の浪人を経て入学し、早大のエースへと駆け上がり、4年時には主将を務めた努力の人。NPB、MLBを通じ44歳までプレーを続けたのも、大学での取り組みが原点だ。さらには、今年1月に野球殿堂入りした、石井連藏元監督の指導が根底にある。石井氏が薫陶を受けたのが、水戸一高(旧制・水戸中)を通じての先輩でもある学生野球の父・飛田穂洲氏。「飛田先生の言う『一球入魂』には程遠い」。小宮山監督はこの2カ月のブランクを埋めるため、安部球場で「練習」と向き合う。安部磯雄氏の言葉にある「知識は学問から、人格はスポーツから」の精神を、学生たちへ丁ねいに教える。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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