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【MLB】今あらためて振り返るべき、アダム・ジョーンズの訴え

 

オリオールズ時代には人種差別についてはっきりと意見を述べていた現オリックスジョーンズ。15年のときと同じような事件をきっかけとした暴動が全米で今起こっている……


 ジョージ・フロイドさん、46歳の死で全米に抗議活動が起きている。「BLACK LIVES MATTER(黒人の命も大切)」のスローガンの下、差別に反対する人たちが立ち上がり、一部で暴徒化も起きている。こんなとき、特に声を上げるべきはMLBだと思う。

 MLBは1997年、ジャッキー・ロビンソンの着けていた背番号「42」を永久欠番とし、彼のデビューした4月15日を毎年祝福することに決めた。47年、人種の壁を破った初の黒人MLB選手。ここから公民権運動が始まったという指摘もあり、リーグが誇りにしてきた史実で、毎年選手全員に42番を付けさせ、盛大に祝った。

 しかしながら、差別は今もアメリカの大きな社会問題で、それについて反発を恐れず、発言してきたのが今はオリックスに在籍するアダム・ジョーンズだった。ジョーンズは、2015年、4月29日MLB初の無観客試合を経験した。地元の黒人男性フレディ・グレイ(当時25歳)が逮捕され、車で連行される途中警察官の暴力を受け、19日に亡くなった。

 今回のような騒ぎがボルティモアで起き、235人が逮捕、20人の警察官がケガをした。市長が外出禁止令を出し2試合が延期。3試合目はナイトゲームをデーゲームにし無観客で開催。

 試合前、暴徒と化した若者について、サンディエゴ出身のジョーンズは「自分もあの子たちとそう変わらない。破壊はいけないが、彼らの気持ちは分かる」と同情した。警官の暴力を目の当たりにして育ったからである。16年9月、人種差別に抗議し、NFLの多くの選手が試合前の国歌斉唱中にヒザをついた。

 ジョーンズはなぜMLBでは同じことが起きないのかと聞かれると、「プレーできなくなるかもしれないからだ。フットボールでは黒人選手は欠かせない存在で放出できない。野球では黒人選手は必ずしも必要ない。野球は白人のスポーツだから」と言い、物議を醸した。

 当時NFLは全選手の68パーセントが黒人、NBAは74パーセント、MLBはわずか8パーセント。MLBはジャッキー・ロビンソンの歴史を誇りにしているが、今も黒人選手はマイノリティーで弱い立場。ゆえに選手は政治的発言や行動を控えようとするが、彼は言うべきことは言った。

 ゆえに攻撃対象にもされた。17年、フェンウェイ・パークでのレッドソックス戦。地元ファンから人種差別的な野次とともにピーナッツ袋を投げつけられた。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは声明文で「アダム・ジョーンズに向けての人種差別的な言葉や行動は私たちの球場では断固として許さない。同じような行為をした者は即座に退去させる」とした。ジョーンズ本人は「ああいう観客は退場だけで済ませず、重い罰金も科して欲しい」と主張している。

 さてジョーンズは18年オフに長期契約が切れFAになったが、通算打率.280、266本塁打の実績にもかかわらず、3月まで契約できなかった(1年300万ドル)。政治的発言が警戒されたとは考え過ぎだろうか。そして19年オフに、アメリカを離れオリックスと契約した。 
 
 MLBが国民的娯楽として胸を張りたいなら、彼のような選手をサポートし、今こそアメリカのあるべき姿について語るべきだと思うのである。


文・写真=奥田秀樹
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