一流と呼ばれた強打者たちの打撃観は、いつの時代も独特な言葉で語られてきた。ここではベースボール・マガジン社発行の『週刊ベースボール』『ベースボールマガジン』などの記事やインタビューから打撃に関する珠玉の“金言”をピックアップ。目からウロコのバッティング向上のヒントがここにある! ・落合博満(元中日ほか)
「フェアゾーンは90度の扇型。だからその中心線を狙って打ち返すのが一番ヒットの確率が高い」
常に打撃を“理屈”で考えていたという落合博満は、センター返しこそ打撃の基本と考えていた。ノックを打つ場合、打つ方向に前の肩を向けて打つ。両肩のラインが打つ方向を決めるわけだ。これを打席に置き換えると、投手の投げてくるボールに両肩のラインを平行に置くことが基本となる。それゆえ、センター返しが最も理に適った打球とのこと。
・王貞治(元巨人)
「時間にすれば0コンマ何秒もない。『あ、遅い球だ』と思うだけでいい」
変化球への対処法に言及して。一本足打法では変化球への対処が最も難しいと思われるが、「あ、遅い球だ」と思うことで、わずかに体を残せれば対処ができたと言う。「緩い球に形が崩れるのは当たり前。きれいな形で打とうと思うこと自体がダメなんですよ」。そもそも一本足打法は前さばきをするための一手段だった。
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飯島滋弥(元東映コーチ)
「月に向かって打て」
大杉勝男(元東映ほか)が打撃不振に苦しんでいた若手時代に、一塁コーチを務めていた飯島が「あの月に……」とアドバイス。余計な力が入り、スイングが縮こまっていた大杉に、本来のすくうようなV字型のスイングを取り戻させようと意図した一言。大杉が不振から抜け出し、リーグを代表する長距離打者に成長するきっかけとなった。
・新井宏昌(元近鉄ほか)
「若いころはいかに力を伝えるか。晩年はいかに投手のボールの力を使えるか、がテーマだった」
現役時代に2036本の安打を放った玄人好みのヒットメーカー。そんな男が残した打撃職人らしい味わい深いコメント。
・イチロー(元マリナーズほか)
「ピッチャーのタイミングが違うから遅れるのだとしたら、遅れる部分を自分のフォームから削除すればいい」
日本とアメリカの投手のフォームの違いがタイミングの遅れにつながっているとして。「ピッチャーに『1、2の3』の“の”の間がないのだから、こちらもその間を抜かなくてはいけないわけです」。自身の感覚を大切に、日々微調整を行うイチローの研ぎ澄まされた打撃観。
・山崎武司(元楽天ほか)
「“詰まり芯”くらいが理想なんですよ」
「ボールは腕が伸びたところでとらえるのが理想」とした上で、「ただそこで打てるのは年に何回もないから、その変形で対応していく」とのこと。レフト方向のポール際の打球は詰まれば切れないため、“詰まり芯”でとらえるくらいの意識を持っていた。
・中西太(元西鉄)
「バッティングはその人の努力の結晶」
「素振りだけは朝起きて歯を磨くのと同じように毎日やっていた」という中西太。遠征先では就寝中も飛び起きて、ほかの選手が寝ている頭の上でバットを振った。引退後は監督、コーチとして多くの選手がバットを振り込むことで打撃スタイルを確立していくのを見ながら、「努力の結晶」だと思うように。
写真=BBM