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【MLB】昨季4000万人動員のマイナー・リーグがキャンセル

 

今季のマイナー・リーグはキャンセルされた。新型コロナの影響とともにこれまでにあった問題も浮きぼりに。これで新しい流れができるかもしれない(写真はイメージ)



 6月30日、今季のマイナー・リーグのキャンセルが決まった。大きく2つの理由がある。まずはMLBのような全米、地方の中継による巨額のテレビ収益はなく、ファンがスタンドに入らないと成立しないビジネスだからだ。85〜90パーセントがチケット、売店、駐車場、球場広告関連の売上である。昨季は全米で4150万人を動員していた。

 しかし今年は新型コロナウイルスでスタンドに観客を入れられない。現時点でマイナーチームは球場をレストランやファーマーズマーケットにし、一般のファンに貸し出すなどして、少しでもお金を稼ごうとしている。

 もう一つの理由は、MLB球団が若い選手を送らないと決めたこと。MLBチームの場合は、健康と安全のガイドラインを作って、コストをかけて頻繁に検査をして、感染拡大を防ぐ努力ができる。しかしながらマイナー・リーグではそこまで感染予防のコストはかけられない。

 ちなみにアメリカで野球のマイナー・リーグがきちんと開催されないのは1918年以来である。世界で5億人が感染したスペイン風邪である。第一次世界大戦で選手を兵隊に取られたこともあってシーズンを終えられたのはインターナショナル・リーグだけだった。

 今季は完全にキャンセルだからそのときよりもひどい事態に陥っている。気の毒なのは若い選手たちである。1シーズン1シーズン、メジャーに上がる日を夢見て、努力を続けてきたのに、丸1年実戦で腕を磨けないのだから。

 もともと、MLBはマイナー組織を縮小しようとしていた。2019年シーズンが終わった後、全米160のマイナーチームを120に減らそうとし、話し合いに入っていた。

 MLB30球団の中で資金に余裕がないチームが合理化を求めていたからだ。その過程で新型コロナの感染拡大が起こった。5月末、MLB球団がマイナー選手を大量に解雇した。ダイヤモンドバックスは最多の64人。理由は2つ。3月半ばに新型コロナでキャンプが中断されたため、毎年行うキャンプ終了時の解雇を行っていなかったこと。そしてコロナ禍でマイナーのシーズンがなくなると想定されていたからだ。

 30球団で唯一マイナー選手を一人もカットしなかったロイヤルズのデイトン・ムーアGMは「ルーキー・リーグや1Aの選手はこの先どんな選手に育つか分からないし、結果的にプロでの成功を諦めても、地元に帰って指導者になる野球に情熱的な人たち。今こそ彼らを追い払うのではなく、支えないといけない」と力説した。

 残念ながらロイヤルズは30球団の中で少数派だった。マイナー・リーグの組織は長年MLBの成功を支えてきた土台である。次の世代のスターを育てるとともに、草の根でアメリカの野球ファンを増やしてきた。と同時に、長年、効率化も求められていた。劣悪な施設も少なからずあった。おそらく新型コロナ禍を転機として、大きく変わる時なのだろう。


 MLBとマイナー・リーグで締結されているプロフェッショナルベースボール・アグリーメントは9月30日で失効する。両者はビジネスパートナーとして、アメリカの野球を今後どう支え、発展させていくか、長期的な視点に立って、話し合うのである。


文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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