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「ルーキーのきらめき」/週刊ベースボール7月27日号

 

1998年セ・リーグの球史に残る新人王争い


7月27日号表紙


 本日、7月15日発売の週べは「ルーキー特集」である。
 表紙は広島森下暢仁、その森下とソフトバンク津森宥紀のインタビューをはじめ、育成を含めた12球団全ルーキーの現在地が分かる内容になっている。ルーキーマニアには必見の一冊だ。締め切り直前には中日の高卒ルーキー石川昂弥が一軍昇格というニュースも飛び込んできた中での製作だった。

 今年のルーキーだけでなく、過去のルーキーも球団別に取り上げている。ただ紹介しても面白くないので、そこは各球団担当が成績と印象度を参考にベスト10形式で紹介している。果たして、あなたの好きなチームの歴代ルーキー1位は? それは見てからのお楽しみだ。

 80年以上に及ぶプロ野球の歴史の中で、もっともルーキーたちが活躍したのは何年のことだろう。それはおそらく1998年のセ・リーグだったのではないだろうか。投手2人、打者2人の新人が驚異的な数字を残したのだった。その活躍を振り返ってみよう。

 1998年のセ・リーグは横浜が38年ぶりの優勝を遂げた。チーム打率.277のマシンガン打線が爆発、大魔神と呼ばれた佐々木主浩が絶対的な抑えとして君臨し、就任1年目の権藤博監督が宙に舞った。
 
 そしてこの年、同じセ・リーグではルーキー4人が躍動し、歴史に残る激しい新人王争いを繰り広げた。

 中日の川上憲伸は開幕から先発ローテーションに入り、真っ向勝負のピッチングで14勝をマーク。明治大の先輩でもある星野仙一監督の期待に応える活躍を見せた。プロ初完封は7月4日の巨人戦(ナゴヤドーム)。5安打9奪三振で7勝目をマークした。防御率2.57はリーグ2位。横浜と優勝争いを演じ、前年の最下位からチームを2位に押し上げたのは川上の力投だった。

 その川上と六大学時代からライバル関係にあったのが、慶大から巨人に入団した高橋由伸だった。強力打線が売りの巨人にあって「七番・ライト」で開幕スタメンをつかむと、シーズン中盤には五番に昇格。非凡な打撃センスを見せ、140安打で打率3割をクリア。19本塁打に75打点、補殺数もリーグ最多タイの12と、まさに打ってよし、守ってよし、さらに爽やかな顔立ちもよしと、1年目にして巨人のスターとなった。
 
 だが、その高橋の打率を上回ったルーキーがいた。阪神坪井智哉だ。プロだった父親を持つ坪井は東芝からドラフト4位で入団。シーズン序盤は代打での出場が続いたが、やがて一番に定着。イチローをほうふつさせる振り子打法でヒットを量産し、2リーグ誕生以後は新人歴代最高打率となる.327を達成。リーグ3位の高打率だった。巨人戦には滅法強く、打率.409で阪神ファンの喝采を浴びた。
 
 広島の小林幹英も負けてはいなかった。開幕戦に中継ぎでプロ初登板初勝利を挙げると、その後も中継ぎ、抑えと54試合にフル回転。9勝18セーブで手薄だった広島の投手陣を支えた。投球時にグラブを突き出す独特のフォームが特徴。81回2/3を投げての105奪三振は、川上の奪三振率を大きく上回った。小林もまた坪井と同じ社会人野球からのドラフト4位で、プリンスホテルからの入団だった。

 新人王は前年までの一軍成績が、投手なら投球回数で30回以内、打者なら60打席以内であれば、支配下登録から5年以内の選手にその資格がある。だが、この4人は全員がプロ1年目のルーキーだった。

 新人王のタイトルは全国の新聞、通信、放送各社に所属し、5年以上に及ぶプロ野球の取材活動をしている記者の投票によって決定する。タイトルに値する選手がいないと判断すれば「該当者なし」と投票することになる。

 4人のうち誰が選ばれてもおかしくはない。どちらにしろ接戦は間違いなく、票が割れることが予想された。しかし、結果は意外にも川上の圧勝だった。

 川上憲伸 111票
 高橋由伸  65票
 坪井智哉  12票
 小林幹英  5票
 無効    3票
 
 受賞の知らせを聞いた川上は「うれしいです。誰が獲ってもおかしくないと思っていました。打者に向かっていく姿アピールできたのだと思います」と満面の笑顔を見せた。

 高橋が「タイトルは憲伸が獲ると思っていました」と言ったのは決して負け惜しみではなく、正直な気持ちからだった。この年の2人の直接対決は22打数1安打。大学時代は川上を打ち込んでいた高橋だが、プロに入るとその立場が逆転した。自分にはその資格がないと感じていたのだろう。

 新人王には川上が輝いた。だが、残る3人もその成績が評価され、セ・リーグ会長特別表彰を受けた。かつてこれほどハイレベルな新人王争いがあっただろうか。98年のセ・リーグは横浜が優勝し、4人のルーキーが激しく新人王を争ったシーズンでもあった。
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