物議をかもす監督の采配
巨人の
原辰徳監督が7月14日の
広島戦(マツダ広島)で、
長嶋茂雄を抜く球団単独2位の監督通算1035勝目を挙げた。1位は“神様”
川上哲治の1066勝。数字の単純比較はできないが、原監督が今年のペナントレースを引っ張っているのに一役買っているのは紛れもない事実だ。指揮官の采配はどれだけ勝負に影響するのか。原監督の功績はベンチワークがクローズアップされるきっかけとなったが、プロ野球ではここのところ物議を醸す「迷采配」が目立つ。
中日の
与田剛監督が迷走している。7月7日のナゴヤドームでの
ヤクルト戦。1点を追う延長10回、二死満塁から八番に入っていた投手の
岡田俊哉の代打として、同じく投手の
三ツ間卓也を打席に送った。三ツ間はファウルで粘るなど必死で食い下がったが、最後は空振り三振。逆転サヨナラ勝ちの絶好機を逃し、無念のゲームセットに向かった。
与田監督は9回終了後、八番の
ライデル・マルティネス投手を岡田に、九番の
アリエル・マルティネス捕手を
加藤匠馬捕手にそれぞれ交代。打力が望めない投手を野手の前に置くという、最終局面を迎えるにしてはあり得ない打順で臨んでいる。序盤から積極的に動いたため、ベンチには野手の交代要員は一人もいない。コロナの特例措置で一軍選手枠が広がって空きがあったにもかかわらず補充していないという“ボーンヘッド”も大きく響き、土壇場でのチャンスの芽を摘んだ。与田監督は「そういうことも含め、すべては監督の責任」と多重ミスを認めた。
就任5年目を迎えた
DeNAの
アレックス・ラミレス監督の采配もさえない。19日の横浜スタジアムでの巨人戦。1点リードの9回から守護神・
山崎康晃を投入したが、同点とされるとあっさりと
国吉佑樹にスイッチ。国吉は
岡本和真に決勝2ランを浴びた。
この日の2回一死一塁の場面では、打席に入った投手の
平良拳太郎にセオリーである送りバントのサインは出さず、平良は右飛に終わっている。ラミレス監督は「ランエンドヒットを考えたけど、そのサインを平良が知っているかどうか確信が持てなかった。だからそのまま打たせることになった」と説明。現役時代から綿密なデータ野球を信条とする指揮官だけにそれなりの根拠はあっただろうが、誰もが首をかしげる出来事だった。
歴代ワーストの通算1563敗
「名采配」とは――。その定義は難しい。名将と称された野村克也は、よく「野球は確率のスポーツ」と話した。詳細なデータから選手個々人の性格や行動の傾向を分析し、セオリーを基に対策を徹底。「それで結果が裏目に出たら、仕方がない」と繰り返し、プロ野球歴代5位の監督通算1565勝を積み上げた。
一方、野村は歴代ワーストの通算1563敗を喫している。弱いチームの指揮をするなど勝利への足かせもあったが、采配を評価する声が多いのはなぜか。その答えは、野村の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」というセリフにある。
監督時代、試合後の野村は、勝ち試合よりも負け試合の方が饒舌だった。敗因を論理的かつ明確に把握しているから、次戦に向けての準備もできる。単なる愚痴にとどまらず、具体的な問題点を示してくれるから、周囲にしてみれば分かりやすい。黒星を重ねてもフロントが「この人に任せれば大丈夫」と勝つまでの猶予を与え、選手が野村へ畏敬の念を抱くことにつながった。
新型コロナウイルスの影響で試合数が大幅に減らされるなど、さまざまな制約を受けるシーズンとなっている。セ、パ両リーグの交流戦に続き、セはクライマックスシリーズ(CS)の中止が決定。頂点に立つために、例年とは違ったアプローチを考えさせられるシーズンとなった。ある球団幹部は、「監督も選手も、『こういう非常事態だからこそ結果を出したい』という気持ちが強い」と話す。
プロ野球は結果がすべて。勝つために手を打たなければならないという過剰な気負いは焦りとなり、いつもとは違う動きを誘う。想定外のコロナ禍は、監督たちに難しい采配を強いている。
写真=BBM