開幕前の下馬評を覆し、リーグ2位につけている
ヤクルト。昨季と決定的に違うのは、「粘り強さ」だ。ビハインドの場面でも決してあきらめない強さがある。
7月30日時点で34試合を消化し、17勝13敗4分。17勝のうち、先制して逃げ切ったのが7試合、劣勢をひっくり返しての逆転勝利が10試合だ。引き分け4は
広島と並んで12球団最多タイ。どんなに劣勢でも、最後まで食らいつく姿勢は失わない。20点を奪われた7月28日の
阪神戦(神宮)でも、7回に
廣岡大志が、8回に
塩見泰隆が本塁打を放って食らいついた。
投手陣は下馬評どおり苦しいが、
清水昇をはじめ、中継ぎ陣が踏ん張っている。打線も、投手陣を援護しようと粘り強さを見せる。中でも突出しているのが四球の数だ。同日時点でリーグ最多のチーム140四球を奪い、個人でも
村上宗隆と
坂口智隆がこれもリーグトップの24四球。ベテランの
青木宣親がさすがの巧打を見せれば、昨季まで準レギュラー扱いだった
山崎晃大朗は、左投手も苦にせずリーグ3位の打率.343でクリーンアップを打つ。
チームの明るさも12球団屈指と言っていい。好守が出れば全員がベンチから飛び出さんばかりに喜び、神宮で勝利した試合は、毎度ヒーローインタビュー選手にウォーターシャワーが待っている。先日小社から発売した「スワローズ全史」には、90年代の黄金時代を知る
高津臣吾監督、
宮本慎也氏、
古田敦也氏に登場していただいた。3人が口をそろえて言ったのは、当時は「明るく、元気がよく、仲がよく、チームが一丸となっていた」。まさしく、今のスワローズと同じなのだ。
高津監督は1978年の優勝以外、すべての優勝にかかわっている(2015年は投手コーチとして)。まさしく“優勝請負人”の指揮官は自ら先頭に立って、黄金時代のような「明るくて強いスワローズ」の雰囲気をつくり出す。常に明るく、前向きに、最後まであきらめない。7月2日の広島戦(神宮)で、同点の9回にサヨナラ満塁弾を放った村上は、試合後に言った。「ヤクルトはあきらめないことが持ち味なので、誰一人あきらめず、なんとか1点ずつ返していこうという気持ちで頑張りました」。チーム一丸のあきらめない姿勢は、間違いなく勝利につながっている。
今年、新型コロナウイルスの影響で日程などが変更になり、セ・リーグはクライマックスシリーズを行わず、優勝チームが日本シリーズに進出する。頂上決戦は11月21日開幕を予定。となれば同25日、高津監督の誕生日に、指揮官を胴上げすることも可能なのだ。この奇跡のような偶然は、劇的な日本一で飾るほかない。
文=依田真衣子 写真=高塩隆