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ジョー・イズ・バック――高城俊人は再び「青」とともに/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 2018年7月11日、高城俊人はバファローズに移籍した。

 トレードはプロ野球選手として避けがたい宿命だ。移籍先の球団から“求められた証”とも言われる。高城自身、早期の一軍昇格、たしかな戦力となることを目標に、新天地での練習に汗を流した。

 しかし、現実は厳しかった。後半戦、一軍に呼ばれることは一度としてなかった。

「その年、ベイスターズではちょこちょこ試合に出て、濱口(遥大)以外のピッチャーを受けたりもしていたので。一軍の試合に出たいなとは思っていたけど、出られなくて……。悔いの残る感じではありました」

 翌2019年も状況は好転しなかった。バファローズの一員として初めて迎えた春季キャンプでは早々に故障離脱。5月から6月にかけて一軍の5試合に先発出場の機会を得たが、それだけだった。秋、戦力外通告を言い渡された。

 高城は淡々と振り返る。

「ぼくも去年で8年目だったので、だいたいわかるんです。7月ぐらいからはファームの試合にも出ていないし、『ああ、もう来るだろうな』って。でも、いろんな人たちから『気持ちを切らすなよ』『腐るな』って言ってもらって。次の年も(バファローズで)チャンスをもらえるかもしれないし、戦力外になったとしてもそこで終わるつもりもなかったし。どっちに転んでもいいように、一生懸命、練習してました」

 予期したとおりの通告を受けてからも、体を動かし続けた。そんなある日、高城の電話が鳴る。

 未登録の番号だったが、聞き覚えのある声が耳に届いた。ベイスターズの関係者からの連絡だった。

「まだ野球を続ける気持ちはあるのか」

 高城は「もちろんです」と即答した。

「うちが声をかけたら戻ってきてくれるか?」

 高城は再び「もちろんです」と答えた。


「ぼくにとって、すごくありがたいこと」


 2020年6月23日、今シーズンの4試合目で、ベイスターズ復帰後初めて先発マスクをかぶる機会が訪れた。無観客の横浜スタジアム。新たに背番号「36」をもらった捕手は、静かな空間の中、心臓の鼓動を高鳴らせた。

「緊張はめちゃくちゃしました。一軍の公式戦も久しぶりで、ベイスターズに戻ってきてから初めての試合で。自分の立場もわかっていましたし、とにかくこの試合で結果を出さないと、チームの勝ちにつなげないとって。マイナスなことも考えたりして自分を追い込みながら、緊張してましたね」

 バッテリーを組んだ濱口は、ドラゴンズ打線に10安打を許しながらも粘り強く投げ、スコアボードにゼロを並べた。3点リードの9回1アウト、走者を溜めたところでバッテリーごと交代となった。


 先発投手に勝ち星をつけ、スタメン捕手としての役目を十分に果たしたと言える内容だったが、高城は試合後、出場選手登録を抹消された。次の出番はおよそ2週間後の7月8日。同日の試合に出場した後は再び即抹消となり、7月19日に再登録。濱口の登板に合わせる形で、一軍とファームを行き来した。

 それでも、高城の心にネガティブな感情は湧き起こらない。

「(バファローズ移籍後も)ベイスターズの試合はずっと見ていて、それぞれのキャッチャーの役割とか流れとかも知っていたので、抹消になるのも仕方ないなって。オリックスではチャンスを掴めなかったことを思えば、一軍の試合に出られること自体がすごくプラスというか。ファームに行っても『またレベルアップして帰ってくればいいんだ』って前向きに考えられました」

 少ないながらも出場機会を得られることをポジティブに受け止める一方で、出場機会が少ないからこその重圧にも苛まれている。高城はこうも言った。

「『その1試合でやらかしたりしたら次はないだろうな』って毎回思いながらやってます」

 今シーズンの起用法でも明確なように、高城は現時点において濱口の“専属捕手”という役目を担う。そのことについて本人はどう考えているのだろう。

「週に1回はチャンスがもらえる形になっているので、ぼくにとってはすごくありがたいこと。もちろん、それで満足してるわけじゃないです。ほかのキャッチャーが出ている試合とか、途中からほかのキャッチャーが出ていった試合とかは見ていても悔しい。でも、そこ(週に1回の出場機会)から幅を広げていけばいい。そのために1試合1試合を全力でやるようにしています」


「ヘッドが走る感覚を大切に」


 7月29日、東京ドームでのジャイアンツ戦で、高城は濱口と今シーズン4度目のバッテリーを組んだ。通算で数えれば31度目のコンビ。ふたりは「まっすぐ多めで」と決め、首位を独走する好調の相手に立ち向かった。

 あの試合を振り返り、高城がヤマ場として挙げたのは初回だ。

「坂本(勇人)さんをゲッツーに打ち取れたところ。普通なら2回の満塁のピンチを切り抜けた場面なんでしょうけど、ぼくとしては初回ですね」

 高城は続ける。

「(濱口は)ずっと三者凡退のイニングがなかったんですよ。前のヤクルト戦も、その前にぼくが受けた広島戦でも1回もなかった。だから坂本さんのゲッツーで三人で終われたのは大きかったんです。濱口はリズムよくアウトを取れれば乗っていけるタイプでもありますし、しかもその抑え方がストレートだったのもよかった。普段ならチェンジアップに頼るところをまっすぐで押せたので、濱口も『今日のストレートはいいんだな』って思えたはずです」

 2回の1アウト満塁を併殺でしのぐと左腕の安定感は増した。4回は正真正銘の三者凡退。その好投に報いるように、5回表、高城は東京ドームの左中間に2ランを打った。

 昨シーズンまで通算1本の男が、今シーズンは早くも2本。打撃に対する考え方を変えたことが功を奏したようだ。

「前までは、必死に強く振ることばかり考えていたけど、いまは自分の気持ちいい感覚、ヘッドが走る感覚を大切にするようにしています。強く遠くに飛ばすというより、その日その日の体調とか感覚に合わせて、ボールなりにヘッドを出して気持ちよく打つ。ホームランが出ているのは、それがちょうどうまくいった結果なのかなって」

 6回裏、濱口は2本のソロを浴びて1点差に追いつかれたところで降板した。そこから平田真吾山崎康晃、S.パットン三嶋一輝と続いた救援投手のリレー。1点のリードを守り切り、チームは勝った。三嶋が投じたラストボール、渾身の153km直球をミットに収めたのは高城だ。

 フル出場して勝利の喜びをグラウンド上で分かち合う――それは、トレードでバファローズに移籍する直前、2018年6月30日以来のことだった。

「常にぼくが目標としているのは、いちばんは先発に勝ちがつくことと、あとは中継ぎのピッチャーが出てきたときにゼロで抑えることなんです。いまは終盤は嶺井(博希)さんが出ることが多いですけど、そういうところでチャンスをもらうためにも、中継ぎの場面でしっかりリードすることは大事だと思っています。それが結果としてできて、なおかつ試合にも勝てたのはすごくうれしかった。ほんとに久しぶりでしたね。ホームランを打ったとかよりも、最後までマスクをかぶってチームが勝てたということが、いちばんうれしかったです」

 27歳はそう言って、笑みをこぼした。




 翌日のゲームも制し、首位ジャイアンツとのカードに勝ち越した。甲子園に移動してのタイガース戦は、1勝1敗1分。ビジター6連戦を勝ち越して戻ってきたころ、横浜の梅雨が明けた。

 およそ3分の1を消化した今シーズン、ここからは過密日程と真夏の暑さとも戦わねばならない。レギュラー、バックアップ、ファーム。文字どおりの総力戦で、ベイスターズは酷暑の8月に臨む。

球団オリジナル応援ボード用テンプレート第二弾
https://www.baystars.co.jp/news/2020/07/0728_01.php

『FOR REAL - in progress -』バックナンバー
https://www.baystars.co.jp/column/forreal/

写真=横浜DeNAベイスターズ
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