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高校野球リポート

新指揮官の下で始まった横浜高の夏。目配り、心配り、気配りが信頼関係に

 

横浜高・村田浩明監督は今年4月から母校を指揮する。神奈川県高野連主催の独自大会2回戦(対戸塚高)、初の公式戦を白星で飾った


 母校のユニフォームを着て、公式戦での初さい配は格別だった。

「熱くなります。スイッチが入るというか、よし! やってやろう! と」

 今年4月、村田浩明監督が名門・横浜高の新監督に就任。直後のコロナ禍により、部活動は停止となり、再開後、約1カ月の調整を経て、夏の独自大会に挑んだ。戸塚高との初戦(2回戦)は、6回コールド(10対0)で快勝。新指揮官の初陣を、白星で飾っている。

「うれしいです。でも、この1勝だけとは言わず、最後の最後まで、1日でも長く、3年生と野球をしたいと思います」

 今年3月までは神奈川の県立校・白山高を率い、2018年夏には北神奈川大会8強と、公立校において手腕を発揮していた。昨年9月末、横浜高は前部長と前監督が不祥事で辞任。「新生・横浜」の切り札として白羽の矢が立ったのが、指導力に定評のある村田監督だった。

 指導モットーは「寄り添う」だ。部活動停止期間中も、さまざまな方法で部員とコミュニケーションを取り、発信し続けた。5月中は野球以外の見識を広げるための資料を作成し、6月以降は練習メニューなどを送信。「目標を設定しないと、見失ってしまう」と、モチベーションを下げさせることはなかった。

 5月20日。「甲子園」につながる「地方大会」の中止が決定した。神奈川県高野連が主催する地方大会に代わる独自大会は「オール3年生で戦う」ことを決めた。

「甲子園に出場するんだ! と全国から横浜高校に入学してくるんです。甲子園への思いはどこよりも強い。今後、どうするかを考えた末、3年生が後輩たちに何を残せるか? に行き着いたんです。渡辺(元智)監督、小倉(清一郎)コーチが築き上げてきた歴史をつなぎ、この春から新体制になって、新たな伝統を継承していこう、ということです」

 横浜高と言えば「ち密な野球」が代名詞だった。かつての神奈川では法政二高、東海大相模高、そして横浜高とライバルを打倒するため、各校がアップデートしてきた戦術である。

 村田監督は原点に戻って、足を使った攻撃をチームに浸透させた。戸塚高との初戦ではエンドランや、次の塁を積極果敢に狙う姿勢が随所に見られた。戸塚高は1回戦で村田監督の前任校である白山高に4対3と接戦を制しており、警戒していた相手だった。「昨夏も県16強で力のある戸塚高さんです。万全の準備をしてきましたが、すべてが想定内でした。3年生は私が話したことを、信じてやってくれる。選手に助けてもらっています」。就任から約4カ月、実質的な指導は約2カ月とは思えないほどの「距離感」である。

 村田監督は合宿所で部員と一緒に食事をし、また、誘われる形で、入浴をともにすることもあるという。試合後取材の最後に、村田監督の人間性がにじみ出るコメントが聞けた。

「今大会は、保護者が試合を見ることができません。誰が悪いということではありません。テレビ中継や携帯電話でチェックしていることでしょうが、勝利の報告を見て、喜んでいただくことが一番。保護者のためにもやっていこう! という思いはあります」

 高校野球は保護者の協力があって初めて成り立つことを、村田監督は現場で痛切に感じている。こうした目配り、心配り、気配りこそが、信頼関係につながるのだと強く思った。横浜高の特別な夏は、始まったばかりだ。

文=岡本朋祐 写真=大賀章好
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