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週べ60周年記念

阪急・山田久志、あの1球への悔いを告白/週べ回顧1971年編

 

 一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

告白シリーズに山田登場!


表紙は左から巨人長嶋茂雄、カージナルスのB.ロビンソン


 今回は『1971年11月29日号』。定価は90円。

 少し前の回に書いた巨人−阪急の日本シリーズ。第3戦、巨人・王貞治のサヨナラホームランがシリーズ全体のターニングポイントとなったが、この号では打たれた阪急・山田久志の「告白」が載っていた。日本シリーズの個所を抜粋し、紹介する。

 王さんの打球が、まぶしすぎるほどまぶしい西陽の中に消えたとき、あの明るいスタンドが一瞬、真っ暗になったようだった。
 投げた瞬間、嫌な予感がした。まるで自分の意思で走るかのように真ん中にすっと流れていった。バットが出てカンと音がしたとき、もうダメだと思った。
 その後、打球を目で追ったのは、切れてくれ、入らないでくれと祈るためだった。だが、祈ってもどうにもなるものではなかった。

 戦前、新聞は阪急有利の予想を書き続けていた。それをそのまま信じてしまったわけではないが、我々も阪急が勝てると思っていた。巨人の試合を詳細に見たわけではない。でも130試合を終わった後にあらわれる数字だけを見ても、あらゆる面で阪急が勝っていた。
 巨人はいざとなったら数字にはあらわれない力を見せるとも聞いていた。しかし、それをいうなら阪急にもあった。そんなものは巨人の専売特許ではない。阪急だって130試合の公式戦の間には、負けムードの試合を技術以外の力で逆転したこともある。
 
 負けてしまった後でこんなことを言って、なんて馬鹿なやつだと笑われるかもしれないけど、本当に勝てると思ったし、勝とうと思って頑張った。
 それがなぜ負けたのか。
 あの運命の1球だったというしかない。シリーズが終わった後、いろいろな評論家の方々が、「山田が王に打たれたホームラン。あれが阪急の敗因のすべてだった」と新聞に書かれていた。
 ほんとにそのとおりだと思う。あの1球さえなければ、シリーズがどうなっていたか分からない。

 王さんに投げたのは、いまさら言うまでもなく、さんざん書かれたことだけど、直球だった。1球目が直球でボール、2球目が直球でストライク、3球目も同じく直球でホームラン。
 なぜ王さんほどの打者に3球も続けて直球を投げたのか。変化球でかわす方法がなかったのか。確かに、ほかに方法があったかもわからない。しかし、相手は王さん。なまはんかな変化球では通用しない。それなら自分の持っている最高の球で勝負するのが男の戦いではないだろうか。
 
 強がりではないけれど、あの泣きたいような苦しみを味わったことは、自分にとって最高に貴重な経験だった。
 勝負の世界には常に勝者と敗者がある。勝者になるに越したことはないけれど、同じ敗者でも、あれほど劇的で過酷な敗北感はそう簡単に味わえるものではない。そんな貴重な体験をしただけでも、これからの人生に決して無駄にならないだろうと思う。
 
 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM
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