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東東京を制した帝京。前田三夫監督が明かした勝因とは?

 

チーム崩壊の危機を乗り越えて


9年ぶりに東東京大会を制した帝京高・前田三夫監督は試合後、充実の表情を見せている


 5月20日。帝京高・前田三夫監督(71歳)は涙を流した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、夏の全国大会(甲子園)と地方大会が中止。1972年から同校を率い春1度、夏2度の甲子園優勝へ導き、歴代4位タイの51勝を誇る名将は、経験したことのない事態に途方に暮れた。しかし、前を向くしかない。勝負師は落胆する生徒たちを、鼓舞し続けた。

 甲子園のない2020年夏。帝京高は地方大会の中止を受けた東京都高野連主催の独自大会で、東東京を9年ぶりに制した。関東一高との決勝は1点ビハインドの9回に追いつくと、11回裏にサヨナラ勝ち(3対2)。感慨深かった。

「(長いキャリアで)こんなことはなかった。でも、どこのチームも一生懸命やっている。ゲームになれば、真剣勝負。(この夏は)引退試合ではない、と言ってきました」

 実は、チーム崩壊の危機があった。

「(活動自粛が明けて)6月は野球がやれる喜びがあったが、目標の甲子園がないと、徐々に士気が下がっていった。(主将の)加田(拓哉)には『お前が作ってきたチームだろう!!』と問いかけて以降、一生懸命取り組んでくれた。それが、勝因です」

 帝京高は2011年夏を最後に、甲子園の土を踏めていない。昨秋は東京大会準優勝。3回戦で関東一高、準々決勝で日大三高、準決勝で創価高と強豪校を続々撃破したが、国士舘高との決勝では打線が2安打と沈黙した。今年1月のセンバツ選考委員会では「関東・東京」の最後の6枠目を花咲徳栄高(埼玉)と争ったが、選出(補欠校)されなかった。

 その悔しさをバネに、厳しい冬を乗り終えてきた。夏の甲子園は消滅したものの、東京でリベンジする思いで、チームは再度結束。とはいえ、指揮官は冷静に見ていた。新型コロナウイルスの感染再拡大もあり、練習試合が思うように消化できなかったからだ。

 打線は水もの。しかも、実戦経験を積んでおらず、大きな期待をかけられないと判断した名将は今大会、バントを多用。一発長打ではなく、確実に走者を進め、得点を重ねる選択をした。東亜学園高との準決勝では8回、関東一高との決勝でも1点ビハインドの9回に追いついているが、いずれもスクイズ。11回裏。無死一塁からは三番・小松涼馬(3年)が犠打をきっちり決め、最後は新垣煕博(3年)がサヨナラ打。投手陣も3人の3年生投手(田代涼太、柳沼勇輝、武者倫太郎)が、それぞれ持ち味を発揮している。

「(バント多用は)チーム状況が完璧ではなかった。1点の重み。(投手の)継投を含め、それ(調整不足)を踏まえた采配です」

「今回の優勝は有意義」


 勝負に徹する指揮官の姿勢に、選手たちも応えた。仮に、その先に9年ぶりの「甲子園」があれば、上位進出も期待できたのでは? 試合後、前田監督は淡々とコメントした。

「優勝をすれば、面白いかな、と……。ただ、(甲子園が)ないことは最初から分かっていたこと。長年、遠ざかっていた意味では、今回の優勝は有意義。選手層は薄かったですがよく、ここまで来てくれました」

 3年生が残したもの。十分な間隔を保ち、一塁スタンドで観戦した2年生以下の控え部員も、先輩のプレーを目に焼きつけた。9回に同点スクイズを決めた遊撃手・武藤闘夢は2年生。最上級生とともに戦った下級生のメンバーも、その財産を新チームへと引き継ぐ。今夏の独自大会のために新調された優勝旗を手にした帝京高。8月10日には西東京大会優勝校・東海大菅生高との「東西決戦」が控える。2020年夏のラストゲームを「名門復活」へ向けた、さらなる起爆剤にしていく。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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