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2020甲子園交流試合

「決勝のつもりで戦った」。“特別な夏”初日に見えた風景/2020甲子園交流試合リポートVol.1

 

新型コロナウイルス感染拡大のため中止となった今年3月のセンバツ出場32校の「救済措置」として甲子園で開催される「2020年甲子園高校野球交流試合」。今夏は地方大会と全国(甲子園)も中止となった。特別な思いを胸に秘めて、あこがれの舞台に立つ球児や関係者たちの姿を追う。

無観客試合でも変わらないもの


8月10日、2020年甲子園高校野球交流試合が開幕した。79年ぶりの中止となった第102回全国高校野球選手権大会の開幕日だった。大分商・川瀬(右)と花咲徳栄・井上の両主将が選手宣誓している


 早朝の阪神梅田駅は閑散としていた。8月10日は「山の日」であり、通勤客もいない。あくまでも目測だが、甲子園へ向かう直通特急の乗車率は10パーセント以下。いつもとは異なる、夏の開幕日の光景が広がっていた。

 例年は地方大会を勝ち上がった各出場校のTシャツを着た保護者のほか、高校野球ファンでごった返す。早実・清宮幸太郎(現日本ハム)が1年生で出場した2015年夏は臨時列車が増便され、改札では入場制限が出たほどだった。車内放送では、車掌がテンション高めに大会開催をアナウンスするが何もなし。途中、尼崎駅から乗車してくることもほぼなく、多くが空席のまま約15分で甲子園駅に到着した。

 2020年甲子園高校野球交流試合が8月10日、開幕した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて原則、無観客試合(控え部員、部員の家族5人、NPBスカウト1球団2人、大学・社会人・独立リーグ関係者1球団2人)。全国に球児の活躍を伝える、報道陣の数も例年より制限されている。当然、甲子園球場周辺も人通りはほとんどない。最も驚いたのは、正面にある「試合案内板」も阪神戦のまま。無観客試合の現実を、目の当たりしたのだった。

 場内に入ると、すでに第1試合の大分商高と花咲徳栄高の控え部員と保護者が十分な距離を保って座っていた。すると、センバツ大会歌『今ありて』が流れた。今回は3月に開催されるはずだったセンバツ出場32校が招待。その意味も理解できた。夏の『今ありて』は新鮮だった。続いて夏の大会歌『栄冠は君に輝く』が……。やはり、夏と言えばこの曲である。テンションが自然と高まるのであった。

 開会式を終え、開幕試合は花咲徳栄高(埼玉)が大分商高(大分)を3対1で下した。2016年夏に全国制覇へと導いた花咲徳栄高・岩井隆監督は特別なオープニングゲームを制し「ホッとしています」と胸をなでおろした。そして、こう続けた。「(最初のゲームということで)模範の試合をしたかった。全力でひたむきにやろう、と。それが、最後までできたので良かったです」。大分商高の主将・川瀬堅斗とともに、開会式で選手宣誓をした主将・井上朋也(3年)は言った。

「勝っても負けても、最後の試合は決勝だけ。決勝のつもりで戦いました」

 第2試合では明徳義塾(高知)が鳥取城北にサヨナラ勝ち(6対5)。チャンスの場面では保護者、控え部員から手拍子が起こり、今回の交流試合らしい応援が繰り広げられた。

 無観客試合でも、夏の甲子園で変わらないものを探した。蝉の声、サイレン、2回の両校校歌。そして、最後まであきらめない高校球児の全力プレー。最終日まで16試合、それぞれの思いを込めて「感謝」を体現する。

文=岡本朋祐 写真=毛受亮介
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