週刊ベースボールONLINE

FOR REAL - in progress -

心、軽やかに――神里和毅、真夏の疾走/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 とめどなく流れる汗は充実をふくんでいる。

 8月、出場した12試合で、47打数17安打の打率.362。ベース間を駆け、本塁を踏む姿を短期間のうちに幾度も見せた。

 久々にスタメンに名を連ねるや4安打と固め打ちした8月4日。ゲーム後に指揮官が残したコメントを引用したい。

「我々の知っているカミザトが帰ってきた」


「その気持ち、いいなあって」


 6月19日の開幕時、一軍のメンバーに神里和毅の名前がなかった。

 春季キャンプ、オープン戦と、納得のいく打撃ができず、それでも開幕延期によって生じた自主練習の期間に復調の確信を得られたはずだった。

 ところが、開幕前の実戦で結果が伴わない。6月6日、ファームに合流。そのまま開幕の日を迎えることになった。

「ぼく自身としてはそんなに悪い感じはなかったけど、結果が出ていなかったので、しょうがないなと……。状態を上げるしかない。いつ呼ばれてもいいようにと思いながら準備をしていました」

 7月5日に一軍に昇格したが、出番は少なかった。狙っていたポジション「1番・センター」では梶谷隆幸が奮闘していて、取って代わるスキを見せなかった。神里は主に代打として打席に入ったが、7月終了時点で.167(12打数2安打)。「試合に出たい」と願いながらも、それに必要な結果を残せずにいた。

 ある記事を目にしたのは7月下旬のことだ。チームメイト、山下幸輝の思いが紹介されていた。神里は言う。

「山下さんは『楽しむ』と言っていて。その気持ち、いいなあって思ったんです」

 7月14日に一軍に加わっていた山下は、野球を楽しむ気持ちをめいっぱい体現していた。その姿に触れ、神里の心も少しだけ軽くなった。

「(結果が残せていなかった期間も)バッティング練習での感覚はよかった。無理して結果を求めようとするとまたおかしくなってしまうので、そこはあまりこだわらずに。アウトになっても自分のスイングができればいいや、ぐらいの感じでいました」


 焦らず、追い込まず、自分の中にある「悪くない感覚」を信じた。

 8月4日、久しぶりにスタメンで起用されると知ったときも、あえて心の張りを解いた。

「スタメンの日の前日あたりは、そこまで調子はよくなくて。『どうすれば打てるのかな』っていろいろなことを考え始めたところでした。でもスタメンが決まって、『もう考えてもムダだな』と。自分ができることをしよう。そのひとつだけを考えて。気楽にというか、『ダメだったらしょうがない』くらいの感じで開き直っていきました」

 2番・センターとして出場し4安打を放ったこの日が、神里にとっての実質的な“開幕”だった。

盗塁への迷いが消えた。


 その後も好調は続く。コンスタントにヒットを重ねていることに加え、四球による出塁も少なくない。

 選球眼がよくなっているのではないかとの声に対し、神里はこう答える。

「(昨シーズンは)低めのボール球と、左ピッチャーのときの外角のボール球をよく空振りして三振していました。そこを追いかけすぎると、落とされたり曲げられたりしたときに空振りしてしまう。だから我慢するというか、ゾーンを上げて、見極めをしっかりすることを徹底しています。あまりいいことではないと思いますけど、ぼくがボールと思った球をストライクと言われたらしょうがない、見逃し三振でもオッケーぐらいの気持ち。それがいい方向につながっているのかなと思います」

 盗塁に関しても、パフォーマンス向上の兆しが見える。

 昨シーズンの盗塁成功率は6割(成功15・失敗10)だったが、今年は企画した4度すべてで成功させている。

 神里は、俊足を武器とする選手の矜持をにじませ言った。

「それ以上に企画はしているんですけどね。打者がファウルしたりする場合もあるので。でも、手ごたえは感じています」

 何よりも大きな変化は意識にある。

 昨シーズンは「迷っていた」。後続が重量打線であるがゆえ、リスクをおかしてまで走るべきなのか、おとなしく長打を待ったほうが得策なのではないか。塁上の心理はしばしば揺れた。

 だが今シーズンは、「出たら行く(走る)つもり」と決めている。積極性の差、あるいは前提の違い。走ると決めれば、相手バッテリーに対する洞察力も、踏み出す一歩目も、鋭さがおのずと増す。


 さらに、自主練習期間中に励んだウェイトトレーニングが走塁に好影響を及ぼしているという。

「走っているときの強さが出るようになったのは感じます。軽い、抜けていく感覚じゃなくて、しっかり地面をつかめている感じ。スタートの一歩目も強くなった」

「ぼくに打点をください」


 8月14日のスワローズ戦、梶谷が左かかとを打撲したこともあって、神里は「1番・センター」で試合に出た。

 初回の第1打席に四球を選び、さらに盗塁を成功させると、4番・佐野恵太のセンター前ヒットの間に生還を果たす。走者を二塁に置いた2回の第2打席には自らタイムリーツーベースを放ち、第3打席に続いて第4打席も四球で出塁、またしても佐野の犠牲フライの間にホームを踏んだ。

 4度の出塁(1安打3四球)、2得点、1盗塁と、リードオフマンの務めを存分に果たした神里。

 1安打2打点と、4番としての仕事をした佐野。

 試合後、普段から仲のいいふたりが横浜スタジアムのお立ち台に並んだ。

 今年から4番とキャプテンという重責を担う佐野について、神里は言う。

「すごいなあって思います。毎試合、何かしら結果を残すので。ぼくは佐野よりは足を使えると思うので、ぼくが塁に出られればチャンスが広がる」

 神里の出塁と、それを本塁に導きいれる佐野の打撃。うまく噛み合っているのは“神頼み”のおかげかもしれない。

 神里が微笑混じりに明かす。

「いつも試合前に、佐野がぼくのところに来て言うんですよ。『今日も塁に出て、たくさん走って、ぼくに打点をください』って。こんなふうに拝みながら『お願いします』って。だからぼくがスコアリングポジションにいるときは、(打席の佐野に向かって)『あとは頼んだぞ』って感じで見ています」


 山下の姿勢に受けた影響も含め、今シーズンに臨む神里の心はどこか軽やかだ。結果を求めて自らに重圧をかけるのではなく、「できることをやる」「ダメならまた一からやり直せばいい」「塁に出たらとにかく走る」――そんなふうに自身の持つ能力を奔放に発揮させる。

 プロ3年目の26歳は言った。

「去年とは試合に出ているときの顔が違うと思います。『絶対打ってやる』という感じじゃない。もちろん打ちたい気持ちはありますけど、自分のタイミング、自分のスイングをしようという気持ちのほうが強いです」

20盗塁を目指して。


 目下、「1番・センター」の座をめぐり梶谷と争う格好だが、神里はやはり気負いなく言う。

「負けたくない気持ちはあります。けど、いまは1番でも2番でもいい。そこにこだわりはありません。いっしょに試合に出たときはカジさんとふたりで足を生かして、チャンスを広げる役目を果たしていきたい」

 長らくチームに欠けているとされてきた機動力。神里らがそれを埋めるピースとして機能すれば、得点力はさらに上がる。

 今シーズンは残り70試合。背番号8は先を見据えて誓った。

「やっぱり走れる選手は走らないと。どんどん足を使っていければ、打撃陣の打点ももっと増えると思うので。数字としては、20盗塁できたらいいなとは思っています。そのために、出塁率も4割近く出したい」

 夏風にユニフォームをはためかせ、チームに勢いをもたらす存在に――。

 見せ場はまだまだこれからだ。

YOKOHAMA STAR☆NIGHT 2020 グッズ 第一弾発売!
https://www.baystars.co.jp/news/2020/08/0813_03.php

『FOR REAL - in progress -』バックナンバー
https://www.baystars.co.jp/column/forreal/

写真=横浜DeNAベイスターズ
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング