楽天の島内宏明は8月24日に国内フリーエージェント(FA)権の資格取得条件を満たした。「正直、一言では言い表せません。今まで無心でやってきたので、まさか自分が(国内)FA権を取得できると思ってもいませんでした」。
星稜高から明大を経て2012年にドラフト6位で入団。その年の育成選手を除いた最下位指名だった。だが俊足を買われ、ルーキーイヤーに一軍出場を果たすと16年に一軍に定着。19年には開幕四番を務めるなどチームの顔として成長を遂げ、昨オフの契約更改で1億円プレーヤーとなった。
以前、島内は「一軍の人も二軍の人もそこまで能力的には変わらないですよ。人間がやっているスポーツだから。でも心の持ちようだけでこれだけ変わる」と話していた。一軍に定着できずにいた4年目のころに「結果を残さないとクビになる」と、これまで以上に真剣に野球に取り組むようになったという。どういった栄養素をどのタイミングで摂るべきかということを考えながら食事に気を遣い、さらにウエート・トレーニングに本格的に取り組むなど、資本である体を作り上げていった。
さらに打席では「おかしい人」になるよう努めている。「チャンスで回ってきてうれしい人はあまりいないと思うんですよね。そう思える人はおかしい人ですよ。でもおかしい人にならないといけないんですよね」。今でも、チャンスでうれしいとは思わない。それでも常に平常心でいられるよう心がけている。それが状況に左右されることなく自身のバッティングができる要因だ。そういった気持ちの変化や思考のコントロールによって、一軍が島内の定位置となっていった。
「僕は現状維持でいい人なんです、ほんとはね。でも現状維持と考えたら下がるだけです。だから野球をやってるときは心を鬼にしてやっていますよ」。やる気を前面に押し出すタイプではない。だが、内に秘める闘志を静かに燃やして高みを目指し続けた。
そしてプロ9年目。一流選手としての権利のひとつを手にした。
「ここまで来られたのも、球団の皆さんのおかげです。(FA権)取得にあたり、若いころ、そして今もなお、監督、コーチにいろいろとご指導いただけたことを思い出し、感謝の気持ちしかありません」
島内が次に見据える高みとは――。オフの動向は気になるところだ。
文=阿部ちはる 写真=BBM