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名球会入りに興味を抱かない藤川球児がこだわった記録と信念とは

 

通算250セーブに「あと5つ」



 阪神・藤川球児が今シーズン限りでの現役引退を表明した。並居る強打者たちのバットが面白いように空を切った「火の玉ストレート」を武器に、日本を代表するリリーバーとして活躍してきた投手。関係者やファンからは労いの言葉や感謝の言葉、引退を惜しむ声などが多数、寄せられた。

 そこで多くの人が口にしたのが「あと5つ」というフレーズだ。2006年途中から抑えを務めるようになった藤川は、これまでに日米通算245セーブを挙げてきた。あと5セーブで名球会入りの条件となる日米通算250セーブをクリアするのである。

 今季も矢野阪神の守護神としてシーズンをスタートさせた。その時点で243セーブ。『松坂世代』初の名球会入りは目前に迫っていた。しかし、一向に調子が上がらない。3人で締めることができず、6月25日のヤクルト戦(神宮)では西浦直亨にサヨナラ3ランを浴びるなど精彩を欠き、7月12日に出場選手登録抹消。同23日に中継ぎとして一軍復帰を果たすも、8月13日に再び登録抹消となった。理由は「右肩、右上肢のコンディション不良」。8月中旬、球団に引退を申し出た藤川は、その状態を「手術が必要なレベル」と説明したそうだ。

 今シーズンは11試合に登板して1勝3敗、防御率7.20。セーブはまだ2つしか積み上げられていない。引退発表の時点で残り60試合。藤川自身が9月中の復帰を目指すと明言したことから、周囲はなんとか「あと5つ」と期待を寄せるが、当の本人は「考えたことはない」と言う。

「もっと大きな財産をいただいたので。(記録を)達成された方、目指している選手は僕には手の届かない大きな存在ですけど、その方たちとも十分に仲良く話せますし、一緒にゴルフも行けます(笑)。それ(名球会の肩書)があろうがなかろうが、何も変わらないです」

「僕は勝ち負けにしか興味がない。(記録を)達成されていない、そことは一線を画して違う戦い方をしたOBの方で、大好きな先輩もたくさんいます」

「僕は阪神に入って、巨人に勝ちたいんです。自己記録を追い求めると……そんなに甘くないんですよ。ピッチャーで200勝、250セーブ達成する……そんなことよりも、という思いが強すぎて。粉骨砕身、チームのためにつぶれる覚悟でやるという、1セーブ挙げるために9回ギリギリのところで出て抑えるとか」

 いずれも9月1日の引退会見で、「記録」について質問されたときの藤川の答えだ。

「優勝」の2文字をつかみ取るために


9月1日に兵庫県西宮市内のホテルで行われた引退会見では言葉に詰まる場面も


 もともと「記録」や「数字」を追い求めるタイプではない。唯一、記憶にあるのは11年8月、通算500試合登板を目前にしたときのこと。長年、クローザーとして活躍してきた中日岩瀬仁紀の名前を挙げて、「500試合登板の時点で岩瀬さんの防御率を上回っていたい、というのはあるかな」と言った。藤川が「数字」に興味を示したことに驚いたものだ。そして8月28日、ヤクルト戦(甲子園)で500試合登板を達成したのだが、その時点の藤川の通算防御率は1.81。岩瀬の1.89をわずかに上回って見せた。

 実は、昨年春先の登録抹消時にも、19年限りでの引退を球団に申し出ていた。球団は態度を保留し、その後、藤川が見事な復活劇を見せたことで今季へとつながったのだが、現役続行か否かを考えたとき、藤川の頭に「250セーブ」の文字はなかったはずだ。「チームにとって自分は必要か」。その一点に絞って考え、出した答えだったに違いない。

 藤川はまだユニフォームを脱いではいない。必要とされる「戦力」として、勝つための「強い駒」として、一軍に戻ってくることを目指している。「あと5つ」よりも大事なもの――「優勝」の2文字をつかみ取るために。チームに「何か」を残すために。そして、家族であるファンに「感謝」を伝えるために。

文=岡部充代 写真=BBM
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