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週べ60周年記念

阪神・江夏豊が振り返る王貞治との勝負/週べ回顧1972年編

 

 一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

進まぬ巨人の世代交代


球宴での江夏。この時点では指を離して投げていたようだが、これは真っすぐだったのか


 今回は『1972年1月3.10日合併号』。定価は120円。
 
 巨人の1972年新スタッフが発表された。目玉は長嶋茂雄が打撃コーチ兼任、王貞治が主将になったことか。「長嶋監督」誕生に向け、着々と動き始めている。
 ただし、川上監督が進めてきた世代交代は今一つ。長嶋の後もそうだが、捕手では森昌彦、内野手では遊撃手の黒江透修の後釜をどうするかがはっきりしない。
 さらに投手陣でも、堀内恒夫高橋一三に次ぐ三番手がいない。
 果たして長嶋が引退後の巨人はどうなるのか……という話は、この時点でもあったようだ。

 阪神江夏豊の手記もあった。この年は14勝。球宴の9連続奪三振はあったが、持病の心臓の疾患と虫歯が悪化しての骨膜炎などもあり、散々のシーズンだった。
 
 また、忘れないシーンとして王貞治に浴びたサヨナラ本塁打を挙げる。

 それにしても忘れられないのは終盤の巨人戦で王さんとの戦いに負けたことだ。
 忘れもしない9月15日、1対0でリードした9回の二死だった。王さんはそれまで3打席3三振だった。新聞には王さんはスランプにあえいでいると書かれていたが、本当に王さんの調子は悪かったようだ。だからと言って甘く見たわけではないが、やっぱり相手は天下の王さんだった。
 9回ツーアウト、まさかあそこで逆転の2ランを打たれるとは。そりゃ口惜しかったり、情けなかった。でも不思議と気分としては爽快だった。
 自分も精魂を傾けて投げ、王さんも死力を振り絞って打った。勝負の世界だから、勝ち負けは必ずついて回る。あの場合は自分が敗者であり、王さんが勝者だった。長い戦いの間には、その立場が入れ替わることもある。しかし勝敗は別として、男と男が死力を振り絞って戦った爽快な気持ち。これは、なんとも名状しがたいものだった。
 あの試合のあと、監督も「豊、お前だってよくやったんだぞ」と言ってくれた。負けた本人が爽快だなんて言うのも変な話だが、涙がにじむほどの口惜しさの中で、なにかからっとしたさわやかなものがあった。
 これが男の戦いの楽しさではないだろうか。

 では、また月曜日に。

<次回に続く>

写真=BBM
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