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「励みになります」帝京・前田監督が主将から贈られた“宝物”

 

球児には「甲子園の土」キーホルダー


帝京高・前田三夫監督は9月4日、阪神球団から届いた「甲子園の土」キーホルダーを、3年生部員18人に笑顔で配布した


 全国の高校球児にビッグプレゼントである。今夏の地方大会、全国大会(甲子園)の中止を受け、阪神球団が企画した「甲子園の土」キーホルダーがこのほど、各加盟校へ届いた。

 9月4日。帝京高グラウンドには3年生18人が集まり、前田三夫監督の手から渡された。各部員は「ありがとうございます!」と、3年間、出場を目指した甲子園の土が入ったキーホルダーを、両手で大事そうに握り締めた。

 素直に、うれしい。しかし、複雑な心境も同居していた。当然である。

 帝京高は今夏、東京都高野連が主催した独自大会(東東京大会)を2011年以来、9年ぶりに制した。昨秋は東京都大会準優勝。結果的に中止となった今春のセンバツでは、次点にあたる「補欠校」と、この夏、甲子園にかける思いはどこよりも強かった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により中止。「夏の甲子園」につながる大会が消滅し、士気が下がった時期もあったが、代替大会ではモチベーションを維持し、復活優勝を遂げた。

 西東京大会を制した東海大菅生高との「東西決戦」は惜敗したが、すべてを出し切った達成感があった。夏の激闘から約1カ月が経過し、甲子園の土が手元に。前田監督は3年生18人に配布する前に、こう言った。

「本来、甲子園の土というのは、出場校しか手にできない。実際には東東京大会を勝ったが、それこそ、幻の出場となった。プレーさせてあげたかったが、9年ぶりに東東京を勝った事実は残る。甲子園の土を踏むことはできなったが、これも経験として受け止めて、この土を宝物に、大事にしてもらいたい」

 前田監督は「おい! 髪の毛、伸びたな!」「元気だったか?」と一人ひとりに声をかけながら、笑顔でキーホルダーを渡した。

 抜群のリーダーシップでチームをけん引した主将・加田拓哉は開口一番「あらためて(甲子園のグラウンドを)踏みたかったです」と本音を漏らした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた情勢を見れば仕方ない。すぐに「土をいただけて、うれしい気持ちです」とすがすがしい表情を見せた。

変わらない白球への情熱


 実は前田監督も球児と同様に「宝物」を手にしていた。うれしそうに、こう語った。

「東東京大会の閉会式で加田が、私の太ももをポン! とたたいてくるんです。何かと思えば『ウイニングボールです……』とささやき、さりげなくくれたんです。不器用な男なんですが、喜ばしいことでした」

 そして、胸の内をこう漏らした。

「(勝てなかった)9年間、大変でしたよ。(自宅のほうに)大事に持っています」

 春1度、夏2度の甲子園優勝と、甲子園通算50勝目の記念球は、学校に飾ってある。今回のウイニングボールは、名将にとって特別だ。

「励みになりますねえ」

 甲子園歴代4位タイの51勝。今年6月で71歳となったが、白球への情熱はまったく変わらない。高校野球は、毎年が勝負だ。3年生のミーティングを終えると、すぐに1、2年生が汗を流す新チームのグラウンドへ戻った。

文=岡本朋祐 写真=山口高明
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