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プロ野球20世紀・不屈の物語

2リーグ制で初めて新人フルイニング出場で180安打。佐々木信也の分岐点/プロ野球20世紀・不屈の物語【1956〜59年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

石原慎太郎を狙い打ち?


『プロ野球ニュース』キャスター時代の佐々木(左は女性キャスターの須田珠理)


 プロ野球テレビ中継の黄金時代といわれる1980年代。チームの本拠地が近くになくても、テレビでプロ野球の試合をリアルタイムで観戦することができた。ただ、当時を知る人であれば、厳密にはプロ野球というよりは巨人戦のテレビ中継が黄金時代だったことを知っているだろう。巨人ファンでないと、自分が応援するチームの試合に触れる機会は少なかった。テレビでは巨人戦を中継していて、時折、途中経過が入ってくるだけ。試合の結果が分からないまま、中継が終わってしまうことも多く、欲求不満に陥るのは人情だ。

 そんなファンにとって欠かせなかったのが、遅い時間に始まるスポーツニュース。中でも、『プロ野球ニュース』の印象は強いはずだ。これがなければ、試合の結果は翌朝の朝刊を待たなければならない。近年のようなスーパー熱帯夜はない時代だったが、これがなければ熟睡もままならなかったファンもいたことだろう。そのキャスターを務めていたのが佐々木信也だ。『週刊ベースボール』でも対談のホストとして長期連載を持っていた解説者だが、多くの人が、その現役時代を詳しく知らないままテレビにかじりついていたのではないか。わずか4年の現役生活だったから、それも無理はない。それでも、優秀な選手だったことは、その語り口から想像できたはずだ。短かったが、激動の4年間だった。

 小学校3年生のときに東京の世田谷から神奈川の湘南へ疎開した。父が野球部の監督をしていた湘南高で1年生の夏に甲子園へ、そして優勝。このとき鍛えたのが右打ちだったというが、「ライトのほうでサッカー部が練習していて、その中にイヤな奴がいたんで、そいつにぶつけようと思ったら、うまくなった。あの石原慎太郎ね(笑)」(佐々木)。慶大では早慶戦に強く、4年生では主将も務めて、甘いマスクもあって「とにかくモテました」という。この連載でも何度か紹介した藤田元司(のち巨人)は同期だった。

 社会人の東洋高圧へ進むことが内定していたが、そんな佐々木に猛アプローチをかけたのが高橋だ。この流れだと女性の名字のようだが、違う。2リーグ制5年目の54年に新設された高橋ユニオンズというチームで、プロ野球の歴史で唯一、オーナーの名字を冠したチームだった。翌55年にはトンボ鉛筆がスポンサーとなってチーム名もトンボとなったが、その翌56年には再び高橋となり、このときチームの再起を懸けて獲得を目指したのが佐々木だ。実家の事情もあって入団を決めた佐々木だが、いきなり“プロの洗礼”を受ける。といっても、一般的なプロの洗礼とは様相が異なっていた。

消滅チームの最後を飾った鮮烈デビュー


高橋時代の佐々木


「春のキャンプで、あまりのレベルの低さに愕然。ゲッツーなんて、誰もできなかった」(佐々木)。チームは創設1年目こそ8チーム中6位ながら、2年目は優勝した南海に57ゲーム差で最下位、でも練習には精を出さないなど、勝ち負け以前の問題を抱えていたのだ。佐々木は開幕から正二塁手としてフルイニング出場。この56年は全154試合で、リーグ最多の180安打を放った。だが、チームは最下位から脱出できず。序盤は新人王も確実といわれて佐々木も、最優秀防御率に輝いて西鉄の優勝に貢献した稲尾和久に及ばなかった。

 さらに、翌57年の開幕を前に高橋は大映に吸収される形で“解散”。選手はパ・リーグの下位3球団に“分配”され、あるいは解雇された。佐々木は大映へ“移籍”したが、そこからは「ガムシャラになれなかった」(佐々木)という。大映も1年で毎日と合併して大毎(現在のロッテ)となり、そして59年オフ、佐々木は解雇された。すぐに巨人の水原茂監督から誘われたが、「なぜクビになった佐々木を獲るんだ」という巨人フロントの発言が新聞に載り、迷惑はかけられないと辞退して引退。はからずも、若くして解説者の道へと進むことになる。

 プロ入りしたのが高橋でなければ、球史に名を深く刻んでいたかもしれない。ただ、そうなると『プロ野球ニュース』で我々が中継のないチームの試合に触れることもなかったかもしれないのだ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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