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FAの人的補償で移籍し、盗塁王2度獲得した「遅咲きの星」とは?

 

開幕直前に西武へ


ヤクルト時代の福地


 球団内で年俸が上位10位以上の選手がFA宣言で移籍が成立したとき、獲得した球団は人的補償や金銭補償が必要になる。18年オフに巨人から内海哲也西武)、長野久義広島)がFAの人的補償で移籍が決まった際は大きな衝撃を呼んだ。

 人的補償はFAと違って自身が望んだ移籍ではない。心の整理も必要だろう。だが、力を評価されて移籍することは大きなチャンスでもある。過去に人的補償で他球団に移籍し、大活躍したケースがある。その代表格が広島、西武、ヤクルトでプレーした福地寿樹(現ヤクルト二軍チーフコーチ)だ。福地は杵島商高から1994年ドラフト4位で広島に入団。俊足を武器にウエスタン・リーグで高卒2年目の95年から98年まで4年連続盗塁王を獲得した。98年はウエスタン史上唯一の年間50盗塁を樹立している。99年に登録名を「和広」から「寿樹」へ変更。00年から代走要員で一軍に定着し4年連続2ケタ盗塁をマークする。レギュラーが見えてきたが、04年の開幕前に右足首靱帯断裂の大ケガを負った。出場機会を減らし、06年の開幕前に青木勇人とのトレードで西武に移籍。このとき30歳だった。

広島時代の福地


「気持ちの切り替えはすぐにできました。もともと他球団への興味もあったんです。後ろ向きのイメージはなかった。しかも常勝軍団の西武で野球ができるのかと喜びましたね」と以前、福地は語っていたが、環境を変えたことで、野球人生が大きく変わる。プロ13年目の06年に91試合出場で打率.289、4本塁打、リーグ3位の25盗塁をマーク。翌07年も117試合出場で28盗塁の好成績を残し、スピード感あふれるプレースタイルに西武ファンからも人気が高かった。しかし、わずか2年で西武を離れる。07年オフ。石井一久のFA移籍に伴い、人的補償でヤクルトのユニフォームを着ることになったが予感はまったくなかったという。

「人的補償が誰になるのかいろいろウワサは飛び交っていましたが、自分の名前は聞いたことはありませんでした。発表前に、西武での契約更改も終わっていましたから。給料もちょっと上げてもらって、翌年もお世話になれると思ってホッとしていたくらいです」と当時語っている。

西武時代の福地


 福地はこの移籍で大ブレークする。08年に一番打者に定着し、131試合出場で打率.320、9本塁打と自己最高の成績をマーク。42盗塁と阪神赤星憲広を1差で振り切り、入団当初の目標だった盗塁王をプロ15年目で獲得した。「うれしかったですね。僕はタイトルと縁がない人間だと、ずっと思っていましたから。レギュラーでもなんでもない時代が長かったし、移籍も経験して。最初のタイトルは『獲れたらラッキー』。だから『幸せ者だな』と思いました」。翌09年も42盗塁で2年連続盗塁王に。30歳を超えて大きな輝きを放つ生き様は、「遅咲きの星」だった。

「移籍は必要なもの」


 福地はヤクルトでの現役時代、移籍に関してこのように語っていた。

「移籍は必要なものです。自分が見てきた中でも『こいつだったら他球団に行けば勝負できるのにな』という選手がいます。プラスになるかマイナスになるかは分からないけど、環境が変わるのは一つのきっかけなんです。指導者も変わります。そういうきっかけを大事にしてほしいし、移籍が活発になったほうが。選手にとってはいいと思います。ほかの移籍選手と話しても、移籍が決まったときにはみんなビックリしています。出されたと思うとしんどいけど、決まったものはしようがないので、僕らはやらなきゃいけない。それでも、移籍はあったほうがいい。いろいろな人間と接する機会が増えて人間関係も広がりますから、良いですよ。楽しいです」

 引退は37歳シーズンの12年。俊足は衰えることなく、この年は12盗塁で失敗はわずか1つと盗塁成功率が9割を超えていた。また、代打でも27打数10安打、打率.370、出塁率.433と切り札的存在だった。シーズン終盤に引退を表明した際は「まだまだやれる」と周囲から驚きの声が多かったが、「ここ数年ケガも多く思うように体も動かなくなった」と本人の決意は固かった。

 引退セレモニーは神宮球場のファン感謝デーで行われ、「常に全力で走り続けてきた19年間、本当に幸せな野球人生でした。出会ったすべての人に感謝しています」とコメント。球場に詰めかけたファンから大きな拍手を浴び、福地の応援歌が流れた。13年からヤクルトのコーチに就任して今年が8年目。セパ3球団を渡り歩いた経験と財産を糧に、後進の育成に全力を注ぐ。

写真=BBM
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