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ベースボールゼミナール

球速が遅い投手でも打者を押し込むような投球をするには?/元阪神・藪恵壹に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。

Q.ストレートの球速が常時120キロ前後のピッチャーです。プロでも130キロ台の球速で活躍しているピッチャーを見ますが、どのような点が優れているのでしょうか。球速がなくても相手バッターを押し込むようなピッチングをするにはどうしたらいいですか。(神奈川県・16歳))



 16歳ということは、高校1年生でしょうか。高校1年生で常時120キロ前後ということは、MAXであればもう少し出ると想像できますが、3年夏まであと2年、正しくトレーニングをしていけば、球速は10〜15キロ以上(一概には言えませんが)アップするのではないでしょうか。もっと球速が上がる場合だって考えられます。

 話が逸れてしまいましたが、質問は「球速がないピッチャーがいかにして相手バッターを押し込むようなピッチングをするか」です。まず考えられるのは、『ボールのキレ』でしょう。これは初速と終速があまり変わらないボールと言い換えることができると思います。初速とは、つまりリリースした直後のスピードで、終速はバッターの手元、ホームベース付近でのスピードのことです。

 一般的に、ピッチャーが投じたボールはリリース直後が最も早く、18.44メートルを進む間に徐々にスピードは落ちていくものです。終速が遅くなればなるほど、バッターには捉えられやすいボールとなりますが、逆に終速が初速とあまり変わらない(※必ずスピードは落ちます)と、バッターは球速表示以上に速く感じ、差し込まれたり、振り遅れたりするわけです。

 キレの良いボールを投げるには、正しいフォームで(フォームがある程度固まっていることが大前提にあります)、腕の振りを速くし、しっかりとボールをグリップした上で、指に掛けてスピンをきかせることが重要です。せっかく腕の振りが速くても、指に掛からないボールには力が伝達されません。

イラスト=横山英史


 今説明したのはストレート単体で押し込むための方法ですが、変化球とのコンビネーションで相手を惑わすことも可能です。考えるべきは球速差、つまり緩急です。120キロのストレートが精いっぱいならば、例えば90〜100キロのカーブを操ることができれば、そこには30〜20キロのスピード差が生まれます。この球速差というのがバッターからすると曲者で、90キロのカーブがあることで、120キロのストレートを速く見せることができるわけです。

 しかも、ストライクゾーンにしっかりと制球することができれば、バッターは手を出さざるを得ません。ストライクゾーンの中で、スピードの変化をつけることができれば、大きな武器になりますよ。今ならヤクルト石川雅規選手や、巨人の田口麗斗選手がその代表格ですね。参考にしてみてください。

●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

『週刊ベースボール』2020年8月31日号(8月19日発売)より

写真=BBM
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