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落合博満監督のリアリズムに打ち勝った原辰徳監督の意地とプライド

 

巨人監督通算勝利で歴代トップに立った原監督。62歳とは思えないほど若々しい


 9月11日のヤクルト戦(東京ドーム)で監督通算1067勝目を挙げ、巨人監督歴代トップに立った原辰徳監督だが、最も印象深いシーズンの一つが2009年ではないだろうか。この年、WBC連覇という偉業を成し遂げてペナントに臨んだ原監督だったが、中日落合博満監督に対するライバル心が燃え上がっていたことは間違いない。引き金は落合中日によるWBCの“ボイコット”だった。代表監督選出でもめた末、指揮を執ることを受諾した原監督。重圧のなか、球界を挙げての協力を信じてやまなかった原監督にとって、この判断は受け入れがたいものだった。

 ペナントは4月17日からの最初の直接対決3連戦で3連勝と相手の出端をくじいた原巨人の圧勝に終わる。2位・中日に12ゲーム差をつけて圧巻の優勝。クライマックスシリーズ(CS)第2ステージ第5戦(東京ドーム)で中日を3勝1敗(アドバンテージ1勝を含む)で下し、日本シリーズへの切符を手にした原監督の表情には、一味違う満足感があふれた。「長いペナントレースがやっと終わった気がする」。つぶやいた言葉に、完全決着への喜びがにじんだ。原監督の発言には、随所に「自己犠牲」というキーワードが散りばめられていた。「全員が一つの目標に向かい、時には自分を殺して尽くしてほしい」。1年間を通じて求めた姿勢は、WBC連覇で意を強くした哲学でもあった。

 故障等の選手情報を“機密”として公開せず、必要以上のマスコミサービスを拒むなど落合監督の万難を排したいという方針は徹底していた。原監督とは一線を画す勝利至上主義も、一概に悪いとは片付けられない。これも一つの、プロフェッショナルの価値観ではある。ただ、「巨人らしい野球を」と、原監督は語る。老舗球団として常勝を義務付けられ、「紳士であれ」という故正力松太郎氏の遺訓も背負う。“ニンニク注射騒動”で吉見一起が登板したCS第5戦でも選手、コーチに「ヤジを飛ばすな」と指示。最後まで信条を崩すことはなかった。

 WBC連覇という大偉業の後、原監督が燃え尽きた気配を微塵も見せなかった事実が興味深い。約8カ月後の11月17日の同大会表彰式。原監督は「優勝直後『気持ちを封印して、ペナントレースに集中する』と言ったけど、当時はそう言わなければならない事情があった。察してほしい」と漏らしている。ペナント優勝後、新聞の手記には「いつもスキのない野球を仕掛けてくる中日の強さには敬服するが、スポーツの原点から外れた閉塞感のようなものには違和感を覚えることがある」と記した。「オレ流」のライバルに絶対に屈するわけにはいかないという意地とプライド。リアリズムに打ち勝ちたいという原監督の理想が、ペナントレースの大きなモチベーションとなったのだ。

写真=BBM
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