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プロ野球20世紀・不屈の物語

ちょうど52年前。GT決戦の長い歴史で最も長い2日間/プロ野球20世紀・不屈の物語【1968年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

2試合で1点も奪えなかった巨人


 プロ野球きっての名門である巨人阪神が、激しいデッドヒートを繰り広げた1968年。その天王山こそ、ちょうど52年前の昨日から始まった甲子園での4連戦だった。とはいっても、4日間にわたったものではない。3日間で、2日目がダブルヘッダーという4連戦。V4を目指す巨人と、それを意地でも阻みたい阪神との濃密な2日間は、シーズンのデッドヒート以上に加熱したものとなった。

 首位を走る巨人と、追う阪神は2ゲーム差。迎えた第1戦で阪神の江夏豊が、ライバル視していた巨人の王貞治から宣言どおり三振を奪ってプロ野球新記録を樹立したことは紹介したが、この試合の最後を決めたのも江夏だった。阪神らしく(?)打線の援護がないまま、両軍ゼロ行進を続けて試合は延長戦に突入。12回裏、江夏は自らのバットでサヨナラ打を放って試合を決めた。まさに江夏の独壇場。言い換えれば、巨人の面目は丸つぶれということだ。さらに2日目、つまり52年前の今日、9月18日のダブルヘッダー第1試合では、エースの村山実が完封、捕手の辻佳紀がサヨナラ本塁打を放ち、阪神が連勝。この2試合で巨人は1点も奪えず、打線は完全に封じられた。

 これでゲーム差はなし。続く第2戦は、勢いに乗る阪神と、面目とともに首位を維持したい巨人という構図に変わる。だが、両チームの先発は、ともに乱調だった。阪神のバッキーは一死から失策で出塁を許すと、三番の王に死球、四番の長嶋茂雄には四球、五番の末次民夫に死球で1点を献上。巨人の金田正一も、いきなり2連続四球でピンチを招き、からくも併殺で無失点に切り抜ける。それまでの緊迫した投手戦2試合とは対照的に、不穏な幕開けだった。

 歯車の狂いは事故を招き、処置を誤れば事件につながる。そんな最悪の事態が勃発したのが4回表だった。巨人は二死から守備の乱れと連打で一気に4点を追加、二死二塁となったところで、打席には王。バッキーの初球は王の顔面すれすれに、2球目もヒザ頭あたりに。王はバットを持ったままマウンドへ歩み寄って、バッキーに抗議。バッキーは弁明、王は打席へ戻ろうとした。だが、すでに事故は起きていた。そして、事件になるのは一瞬だった。

最悪の事態を救ったのは……


騒然とした試合で一発を放った長嶋。試合後、笑顔でロッカーに引き揚げていく


 王がマウンドへ歩き出したのをキッカケに、巨人ベンチからナインが飛び出していた。そして、当人である王を蚊帳の外に、バッキーに詰め寄る。先頭は王の師匠でもある荒川博コーチ。制止されながらも荒川コーチはバッキーに蹴りを見舞い、バッキーも右ストレートで反撃する。そのまま両チーム入り乱れての大乱闘。興奮した観客も乱入した。試合は20分の中断。荒川コーチとバッキーが退場となり、試合は再開された。球史に残る不名誉な乱闘事件で、このとき右手の親指を骨折したバッキーは事実上、選手生命を断たれたのだが、この試合は、ますます混乱していくことになる。

 試合が再開されるや否や、王は3ボール1ストライクから頭部死球で昏倒。ふたたび乱闘になりかけるのは当然だったが、巨人の川上哲治監督は飛び出したナインを呼び戻し、事なきを得る。死球を与えたのは緊急登板の権藤正利だ。大洋で悪夢の28連敗を経験した左腕ということも紹介しているが、「あの権藤が故意死球を投げるはずがない」という川上監督の言葉に、ナインが納得したものだった。

 その温厚な性格で知られ権藤。一番やってはいけないタイミングで一番やってはいけないことをしでかしてしまった権藤は、ある意味では王よりダメージを受けたのかもしれない。続く長嶋は、続投した権藤から3ラン。この一撃で騒然としていた場内は沈静化に向かった。この試合は長嶋の凄さとして語られることも多いが、もし王に死球を与えたのが権藤でなければ、事態は悪化していた可能性もある。「あの権藤」と言われたほどの左腕も、間違いなくキーマンだった。

 試合は10対2で巨人が大勝。だが、翌19日は中1日の江夏が完封、打線も3点を奪って、前夜の大荒れが嘘のように、ふたたびゲーム差なしに戻っている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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