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「ウィズコロナ」における新たな東京六大学の応援文化

 

応援活動実現に向けて


東京六大学応援団連盟・宮川隼連盟委員長(早稲田大学応援部4年・代表委員主将)はウィズコロナ下における、神宮球場での新たな応援スタイルを模索している


 9月19日、東京六大学リーグ戦に、1年ぶりに「応援合戦」が戻ってきた。開幕試合は東大−法大。左翼席と右翼席の一角に設けられた応援席で、試合前のエール交換が始まった。

「両校の応援歌、校歌を聞いて、初めて神宮に戻ってきたんだな、と実感しました。どうにかして応援文化を継承できないか、と六校で模索を続けてきました」

 東京六大学応援団連盟を束ねる宮川隼連盟委員長(早大4年・稲毛高)の言葉である。今年は6校で持ち回りである当番校は早大の年。宮川連盟委員長は早稲田大学応援部を率いる代表委員主将という立場もある。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、各6校の応援団(部)も活動自粛となった。野球部のほか、各部の活動が停止となり、大会も中止。アスリートの戦う場がなければ、選手を後押しする応援団(部)が表現する場所もない。東京六大学春季リーグ戦は再延期により、8月10日から18日まで開催されたが、応援団(部)の入場は許可されなかった。

 秋のリーグ戦は4年生の団員、部員にとっても最後の神宮。東京六大学応援団連盟は活動実現へ向け、東京六大学野球連盟、神宮球場との打ち合わせを何度も行った。当初、宮川連盟委員長は万全の感染予防対策を講じた上で、通常の内野席(応援席)での応援を提案していたという。だが、ソーシャルディスタンス、飛沫防止、密集、密接を回避しなければならない観点から、観客との接触を避ける必要があり、同案は見送られた。それでもあきらめられない。「直接、聞いてはいませんが、私たちの『思い』が届いたのかもしれません」。東京六大学野球連盟は観客を入れない外野席における、応援活動のプランを提示。ただし、実現への大前提として大学当局からの活動許可、さらには、専門家からの意見、指導を受けた上でのガイドライン作成にあった。「慶應義塾大学應援指導部の関係者に医学部で感染症に詳しい方がいまして、それらの意見を参考にまとめました」(宮川連盟委員長)。

 報道陣に配信された「東京六大学応援団連盟新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」はA4用紙に3枚。【基本方針】【球場に入る際の感染予防策】【応援中の感染予防策】【応援団関係者の中から感染者が発生した時の対応】と詳細に記載されていた。配布されたのは、開幕3日前。宮川連盟委員長によれば、寝る間を惜しんで作業に追われた。各6校は粘り強い交渉を重ね、活動許可も得られた。

「私一人では何もできない。連盟本部のメンバーの協力なくして、完成しませんでした。当番校の早稲田が中心となって動きましたが、六大学連盟としての絆の強さを感じました」

 左翼、右翼席には500席のスペースが用意されたが、実際に入場できるのは100人以内。人との距離が十分に取られ、応援指揮を執るリーダー以外はマスク着用が義務づけられた。リーダー部、チアリーディング部、吹奏楽部の三部一体となった応援風景が戻った。

「自分たちの力になる」


 神宮に活気が戻り、周囲の反応もすこぶる良かった。早大の主将兼エース・早川隆久(4年・木更津総合高)は「自分たちの力になる。応援があるだけで、打者は『ここで一本打たないと』と思うし、自分がピンチになったら『ここで抑えないといけない』という気持ちが全然違う。応援の力は偉大だなと感じた」。さらに、試合をジャッジしたある審判員は「応援で背中を押された」と、ゲーム進行におけるリズムにも好影響を与えていると明かした。こうした言葉を宮川連盟委員長に伝えると「うれしい限りです」と笑顔を見せた。

 とはいえ、第1週を終えて課題も見つかった。第1試合の2校が完全退場してから、第2試合の2校が入場するが、思いのほか、時間を要した。このため、第2試合前の校歌斉唱ができなかった。機転を利かせて、限られた時間内でエールだけは行ったという。また、試合中、応援団の枠からややはみ出してしまうことがあった。「心は熱く、頭は冷静に。肝に銘じて生かしていきます」(宮川連盟委員長)。

 第8週(最終週、11月7、8日)には、早慶戦が控える。本来は約4万人の大観衆、学生を前にして応援を展開する最高のステージだが、今秋は実現しない。「外野で応援させていただけるだけでありがたいこと。早慶戦に立つために、下級生時代から歯を食いしばってきました。慶應に勝って、(試合後は)先にエールをします!」。宮川連盟委員長は先輩からの伝統を守りながら「ウィズコロナ」における新たな東京六大学の応援文化を発信していく。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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