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野村克也の金言「人間は感情の動物」。藤浪晋太郎の配置転換は復活のステップに

 

中継ぎで160キロを連発


中継ぎ登板が藤浪にとっていいきっかけとなるか


 圧巻のパワーピッチが甲子園球場のファンを魅了した。

 10月1日の阪神中日戦。2点リードの8回にマウンドに3番手としてマウンドに立った阪神・藤浪晋太郎は、先頭の堂上直倫を150キロ後半の速球で追い込むと、キレのあるカットボールで空振りの三振にねじ伏せた。ショーはここからさらに盛り上がった。

 木下拓哉への2球目の外寄りのストレートは、球場掲示で3年前に記録した自己最速に並ぶ160キロをマーク。観客席のどよめきにも表情を崩さず、藤浪はリードする梅野隆太郎のサインに力強くうなずいた。3球勝負に選んだ球種は外角低めの真っすぐ。渾身の160キロで詰まらせると、木下の打球は二ゴロとなった。

 藤浪の勢いは止まらない。打席に代打・井領雅貴を迎えると、160キロを連発。強気の真っすぐ勝負を挑むと、最後はフォークで空振り三振を奪った。

 4度目の中継ぎ登板で2ホールド目を獲得した。藤浪は「球速は狙っていたわけではない」と振り返ったが、気合はいつも以上にみなぎっていた。「勝負する中で全力を出し、たまたま(160キロが)出た。短いイニングだし、とにかく腕を振ることが大事という気持ちだった」。一心不乱に、ただ投球だけに没頭。思い切りのいい、ハツラツとしたプロ入りしたころの姿をほうふつとさせた。

 藤浪はこの2日前の同カードで、本拠地・甲子園初の救援マウンドに上がっている。自身初の3試合連続の登板で8回を無失点に抑え、プロ8年目で初めてのホールドを記録。登板後、「死ぬほど緊張した。先発のときとは違い、人の勝ちが懸かっている場面で投げることが、こんなに緊張するとは思わなかった」とコメントした。

 ブルペン待機は、先発とは180度異なる準備が必要になる。かつて味わったことのない空気が充満する本番のマウンドに出て、未完の大器は何を感じ、どのようなモチベーションで挑み、どんなパフォーマンスをイメージしているのか。4日の巨人戦(甲子園)では痛打を浴びるなど、決して最高の結果ばかりを出しているとは言えないが、ここ近年の姿とは違うオーラがある。ずっと先発としてプレーしてきた投手の、その変化は興味深い。

 チームとしては、あくまでも先発として完全復活するためのステップとしたい考えだ。矢野燿大監督は「救援は人の勝ちとかチームの勝ちを背負うことになる。自分でここを抑えないと、という思いは誰でもよぎる。今までみんなこうやって俺のことを勝たしてくれていたんだなということや、1イニングを抑えることがこんなにプレッシャーかかるんだなと学べる。先発に戻ったときに、この経験がきっと生きる」と説明する。

生かすも殺すも本人次第


 新型コロナウイルスのクラスター感染の影響により一軍の投手陣が手薄となり、苦肉の策として二軍からの昇格となった。チームとして厳しいアクシデントが、不振から抜け切れない藤浪にとっては浮上に転じるための絶好のきっかけになった。期せずして経験することになった中継ぎとしての役割をどうとらえるか。それを生かすも殺すも、「結果を出すために、しっかりと投げるだけ」とだけ語った本人次第だ。

 配置転換は、時に人を生かすための有効な手段となり得る。在籍チームが変わり、息を吹き返した楽天涌井秀章ロッテ澤村拓一らも似たようなものかもしれない。環境が大きく変われば大きく刺激を受け、見えなかったものも見えてくる。今までとは違った何かを探そうと意識することにつながり、忘れていたものを思い出そうとする。

 ヤクルト、阪神、楽天を率いた野村克也氏は、生前よく「人間は感情の動物である」として、身の置き方や考え方などを変えることの大切さを説いた。「心が変われば態度と行動が変わり、その人の人生も変えることができる」――。名将の色あせない金言は、越えられなかった壁に阻まれ、苦しみもがく人物の現状突破のヒントとなる。変わろうとする藤浪は、野球人生の大きな岐路に立っている。

写真=BBM
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