読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.中学生です。一塁ランナーでリードをとる際、一塁ベースの真ん中から、二塁ベースの真ん中を結んだ真っすぐのラインに沿ってリードをとっていましたが、一塁ベースの外野側の角と、二塁ベースの外野側(手前)の角を結んだラインでリードをとったほうが、けん制時も、盗塁時も少しだけタッチが遠くなると聞きました。プロもそうしているのでしょうか。(静岡県・13歳)(北海道・16歳)
帰塁時に少しでもタッチを避けようと考えれば、質問の方が言うとおり、一塁ベースの外野側の角(便宜上、Aとします)を起点にするほうがほんのわずかですが、一塁手から遠くなり、有利に働くと思います。一塁手がけん制を受けた際、ベースよりも前で捕球してから、タッチに向かうことが多いためで、Aまでの距離があるからです。特に右投げの野手の場合、捕球からタッチまで時間が掛かるので、Aに帰塁するほうが良いのです。一塁ベース上でベンチからのサインを見るとき、スタンディングで帰塁する際なども、Aの角を踏めるように習慣づけておくのが良いのではないでしょうか。
私の場合、盗塁の際はAの角から二塁ベースの外野側(手前)の角(便宜上、Bとします)に向かって真っすぐにリードをとるようにしていました。右足からスタートするにしても、左足から一歩目を出すにしても、この左足はA―Bを結んだ一直線上よりも内側を踏むことになるからで、私の場合、そのままBではなく二塁ベースの真ん中(便宜上、Cとします)に向かって走るようにしていました。というのも、一塁手のけん制時のタッチとは異なり、二塁ベース上でカバーに入った選手は、基本的に、ベース側面の真上で捕球し、真下に落とすようにタッチをするからです。それくらい正確な送球がキャッチャーから送られた場合、Bに滑り込んでもCに滑り込んでも、ほとんど違いはありません。また、Cに向かって走るのは、応用が利くから、という理由もあります。
例えばCに向かって走っていた途中で、ベースカバーに入った二遊間の選手の動きを見ることができると思います。このとき、送球がショートバウンドしたり、低いようなとき、カバーに入った野手は捕球を優先してベースの真上で待つのではなく、グラブだけホーム側に出して捕りに出る場合があります。このようなケースではCに滑り込むのではなく、瞬時に目標をBに変えて滑り込むことで、捕球した位置からグラブ半個分、距離を取ることができます。送
これとは反対に球がB側に逸れていれば、この逆ですね。大事なのは走りながらも周りを観察することで、よりセーフになる確率の高いほうを選択できる柔軟性と判断力があるか、でしょう。ぜひ試してみてください。
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に
巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2020年9月28日号(9月16日発売)より
写真=BBM