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130試合目の初勝利――平田真吾の「最高の一日」/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 2017年8月22日――。

 3点差を追いかけていたカープ戦の9回裏、筒香嘉智(現MLBレイズ)が2ランを放ち、続いてJ.ロペスが同点ソロをレフトスタンドに叩き込んだ。

 その直後、ベンチで戦況を見守っていた尾仲祐哉(現タイガース)は、隣にいた平田真吾からこう声をかけられた。

「これで勝ったらお前が勝ち投手だぞ」

 視線の先、宮崎敏郎のバットが捉えた白球は左翼フェンスを越え、9回表のマウンドに立っていた尾仲は本当に勝ち投手になった。プロ6戦目での初勝利だった。

 そんな話をしたことを、平田は覚えていない。

 ただ、投手の記録につく「勝」を意識し続けてきたことはたしかだ。もつれた試合がベイスターズの勝利で終わりそうなとき、投手間では「誰に勝ちがつくのか」とよく話題にのぼるというが、自身がその対象になることはなかった。

 平田は言う。

「(プロで未勝利という意識は)ずっとありました。いつからというか……いつも。毎年、『まだ勝ってないな』と」

 2020年10月7日のジャイアンツ戦。平田にようやく「勝」がついた。

 登板130試合目にして2度目の先発。首位ジャイアンツの本拠地・東京ドームで、5回2失点。

 運よく転がり込んできたのではない。自らつかんだ勝利だ。

デビュー早々の挫折を経て。


 プロ入り後、挫折のときは早々に訪れた。

 開幕一軍入りを果たしたルーキーイヤーの2014年、2試合目の登板で打ち込まれた。ジャイアンツを5点リードして迎えた8回の頭からマウンドを託されたものの、相手打線に勢いを与えて降板。1イニング10失点を喫する逆転負けにつながった。

 スタート直後のつまずき。往時を振り返る口調はいまだに重い。

「そうですね……。あの1試合ですぐファームに行くことになったので、すごくダメージが大きかった」

 平田が一軍に帰ってきたのは、降格から3カ月以上が経過した7月21日だった。その日、思いがけない形で出番が来る。

 先発が初回、わずか5球を投じたところで危険球退場となってしまったのだ。急きょマウンドに上がったのが平田だった。

 準備はまったくというほどできなかったが、必死で投げた。4イニングで自責1。平田が「いちばん印象に残っている」と語る試合だ。

 あらゆるリリーフ投手がそうであるように、やられてはやり返すことを繰り返しながら、信頼や期待をすり減らしたり積み重ねたりしながら、これまでプロ野球選手としての命をつないできた。

 平田に関しては、厳しい評価が下される時間の方が長かったかもしれない。過去、投じた試合の内訳を見れば、ビハインドシチュエーションでの登板が圧倒的に多い。

 期待値が高い状態で迎えた今シーズンも、開幕直後に試練があった。6月20日のカープ戦で鈴木誠也に満塁ホームランを打たれた。登板2試合目の8回のマウンド。その状況は、ルーキーイヤーの痛恨の記憶と重なる。

「毎年あんな感じで打たれていたので、『今年もやってしまったか』と……」

 被弾の直後、心に影は差した。


「引きずることはなくなった」


 かつての平田なら、再び胸を張ることは難しかった。

「打たれたことを引きずって、打ち取るイメージが湧いてこなかった」

 そんなふうに振り返る昨シーズンは、登板8試合、防御率9.31で終わった。

 だが今年、右腕は膨らむ不安の風船を押し返せた。心と体。両方の成長がそれを可能にした。

 昨オフ、オーストラリアン・ベースボールリーグのキャンベラ・キャバルリーに派遣された。現地で触れたのは、オールウェイズ・ハッピーの空気だ。小さなことでくよくよしない。普段の生活も、野球も、大らかに楽しむ。

 その心の持ちようが大事だと学んだから、食らった一打から立ち直れた。

「オーストラリアでの経験が生きたと思います。いままでだったら、引きずって、また失点をしていたと思う。今年は阪神戦(8月11日)でも5失点したことがあったけど、その次の登板でしっかりゼロで抑えられた。引きずることは全然なくなったかなと思います」

 体、あるいは技術についても、昨オフからの取り組みが成果に結びついている。平田は言う。

「オーストラリアで過ごしていた間、それからコロナの期間と、練習する時間がたくさんあった。自分の体のことや投げ方について、いろいろと教えてもらったことを自分なりに考えてやってきました。左肩が開かないようにすることと、頭が突っ込まないようにすることを意識しています。その結果、感覚がよくなってきたことで、安定して投げられている」


 過去6シーズンで計6ホールドを挙げた右腕は今年、すでに8ホールドをマークした。登板試合数、防御率でもキャリアハイ更新を射程圏内に捉えている。

 8月28日からの15試合は、無失点の投球を続けた。本人は「(前の投手が残した)ランナーを還してしまっている」と悔やむが、首脳陣からの信頼は投げるたびに積み重なった。

「イニングだけは少しでも食いたい」


 10月7日のジャイアンツ戦に先発することを言い渡されたのは、その3日前だった。投手コーチに、こう言われた。

「一番手で行ってもらう」

 2018年4月にも、同じくジャイアンツ戦でプロ初登板を経験している。当時はファームで長めのイニングを投げるなど、文字どおり「先発」としてマウンドに上がった。

 今回は、「行けるところまで」という姿勢は前回と共通しているものの、ブルペンデーのまさしく「一番手」という意識が強かった。

 試合は初回から動く。ベイスターズが1点を先制した直後の1回裏、平田は先頭から2者連続の四球、そしてタイムリーを浴びて1アウトも取れずに同点とされてしまう。

「自分の状態はいいと感じていたんですけど、ボールが思ったところに行かなかった。心と体がうまく一致していない感じでした」

 ここで守りのタイムがかかり、木塚敦志投手コーチがベンチから駆け寄ったことが平田を落ち着かせた。

「あそこで冷静になれた。タイムに助けられました」

 岡本和真丸佳浩から連続三振を奪うなど、この回を1点で切り抜けて、投球は安定軌道に乗った。4回には丸に勝ち越しのソロを浴びたが、「一番手」としての期待に十分に応える内容だった。

 勝ち越された直後の5回の攻撃は平田の打順から。代打を告げられても仕方がないと覚悟していたが、歩み寄った木塚は「どうしたい?」と尋ねてきた。

 平田にはそれがありがたかった。

「選択肢をくれたんです。負けていたということもありますけど、中継ぎは前日も結構投げていたし、ぼくは(あの時点で)4イニング投げていて次の日は投げられない。そうなったら、やっぱりイニングだけは少しでも食いたいので、行かせてもらいました」

 5回裏、初回に先制打を許したZ.ウィーラーから空振り三振を奪って、平田はこの日の務めを終えた。

 依然として1点ビハインド。勝ち投手の権利は、まだなかった。

1年間を通して活躍してこそ。


 6回、ベイスターズ打線はロペスとN.ソトの2者連続ホームランなどで4点を奪い、逆転に成功する。平田に勝ち投手の権利がついた。

 以後、試合の展開をベンチで見つめる心境はどのようなものだっただろう。

「いつもどおりの感じで見ていました。ただ、リリーフ陣には変なプレッシャーがかかってしまっていたので、ほんとに申し訳ないなと思いながら」

 最終回を三嶋一輝が締めて、ベイスターズは快勝した。ヒーローインタビューを受ける平田の目はかすかに涙ぐんでいるようにも見えたが、「そうですかね」と本人は煙に巻く。「ずっといろんな人に応援してもらってきたので、すごくうれしかった」。涙はどうあれ、感謝の思いはこみ上げてきた。

 ジャイアンツ戦を振り返り、平田は言う。

「のびのびできた感じがあります。5イニングということは、その試合の半分以上を投げたということ。そのぶんの責任が自分ひとりにかかってくる。そこを任せてもらったということがぼくとしてはうれしかったし、緊張感の中でしっかり投げることができた。すごく充実感がありました」

 とはいえ、先発投手として名を成したいとの欲が強まったわけではない。

「そこはぼくが決めることではないので何とも言えないです。でも、いままで中継ぎとして、いろんな方たちから教えてもらってきたので。1年間、一軍で中継ぎとしてやりきることが、その方たちへの恩返しになるのかなと思っています」


  ウイニングボールを手にして帰宅した平田を待っていたのは、すでに眠りについていた幼い子どもからの置き手紙だった。

『きょうせかいでいちばんじょうずでしたよ』

 31歳は父親の顔になる。

「時間帯がずれているのでなかなか会えないけど、いつも手紙を書いてくれるんです」

 ヒーローインタビューで語った「最高の一日」は、こうして幸福に閉じた。

 ただ――妻にはちょっと叱られた。平田は先発するということを伝えていなかったのだ。

「『先発するなんて聞いてないけど』って(笑)。ぼくはあくまで(リリーフの)一番手として普段どおり投げようと思っていたので、わざわざ言うことはしなかった。投げても2〜3イニングかなって。まさか勝ち投手になるとは思っていませんでした」


 今シーズン、7年目にして初めて、開幕からずっと一軍にいる。

 平田の胸には、これまで幾度となく耳にしてきた「1年間を通して活躍してこそプロ野球選手だ」という言葉が刻まれている。それを実現するチャンスだ。

「あと20試合ちょっと。最後までこっち(一軍)でしっかりと投げられるようにしたい。初めてのことなので不安がないわけではないけど、がんばるしかないです」

 常に肝に銘じているとおり「腹をくくって」、背番号34はラストゲームまでマウンドに向かい続ける。



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写真=横浜DeNAベイスターズ

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