
早大・早川隆久は10月26日に行われるドラフトにおいて、1位入札競合が予想される
スカウトは何を視察しているのか?
いかに試合で使えるかを、見極めている。投手であればブルペン、打者であればフリー打撃は、あくまでも「参考資料」に過ぎない。言うまでもなく、練習は選手主導で動ける。しかし、実戦では相手がおり、技術に加えて、駆け引きが戦う上での重要な要素になる。選手も同じである。いくら練習で手応えを感じても、自信や確信をつかむことはできない。試合での結果が、すべてなのだ。
新型コロナウイルスの感染拡大活動自粛期間中、早大・早川隆久(4年・木更津総合高)は不安を抱えていた。周囲の評価が、一人歩きしていたからだ。151キロ左腕。ドラフト1位候補。胸中は複雑だった。何を気にしていたのかと言えば、リーグ戦通算成績である。
6月上旬、早川は言った。
「7勝12敗。評価に見合うだけの数字を残していないですからね」
しかも、入学以来、リーグ優勝を経験していないことも納得がいかない一つだった。主将として、さらにエースとしての自覚が増した早川は自らの左腕で、その不安を打ち消した。8月開催の春季リーグ戦の開幕カード(明大1回戦)で初完投勝利。自己最速を4キロ更新する155キロをマークした。
1カ月後に開幕した秋も、好調を維持している。明大との開幕カードでは1失点完投、法大1回戦ではリーグ戦初完封、東大1回戦では7回1失点で、自身開幕3連勝を遂げた。早川は「無敗」を目標に掲げており、春の1勝(0敗)に加えて、最終学年に4つの白星を積み上げた。
11勝12敗。ついに、負け越しを1つとした。早大は残る2カード(立大、慶大)。このまま、勝ち続ければ最終週に組まれるライバル・慶大とのカードで、勝ち越せる可能性がある。法大2回戦での救援を含め、4試合で防御率0.34(26回2/3で2失点、自責1)と、
小宮山悟監督が「無双」と語るのもうなずける。与えた四死球はわずかに4。奪った三振は46で、奪三振率15.53と規格外の実績を残している。この三振ラッシュは、東京六大学リーグ最多476奪三振をマークしたかつての早大・
和田毅(
ソフトバンク、1999〜2002年在籍)を彷彿とさせる勢いがある。早川は名実とも、2020年ドラフトの主役の一人となった。
とはいえ、あくまでも、チームの勝利が最優先。開幕前にこだわっていた個人の数字についても、シーズンが始まってしまえば、興味はないはず。通算成績は、シーズン終了後にゆっくり振り返るのであって、2015年秋以来遠ざかるリーグ優勝、天皇杯のために、全力で腕を振るだけだ。
文=岡本朋祐 写真=佐藤雅彦