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プロ野球20世紀・不屈の物語

伝説の“10.19”……。最下位ロッテの意地を見せた投打の“敵役”/プロ野球20世紀・不屈の物語【1988年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

“国民の敵”ロッテ?


“10.19”ダブルヘッダー第2戦でロッテに引き分け、優勝を逃した近鉄・仰木監督


 1988年の“10.19”。シーズン最終戦のダブルヘッダーで連勝すれば優勝という近鉄が、第2試合で“時間の壁”にも阻まれて悲願に届かなかった伝説の1日だ。この連載でも何度か紹介してきたが、当初はNHKラジオでしか中継されていなかったものが、テレビ朝日系の『ニュースステーション』でも予定を変更して中継するなど、一日、いや一夜のうちに列島を興奮の渦に巻き込んだ。

 このドラマの主役は近鉄。当時は西武の黄金時代で、やや倦怠感のようなものが漂っていたことや、判官びいきという国民性も手伝ってか、近鉄と対峙するロッテを応援していたファンは少数派だっただろう。結果的に優勝、リーグ4連覇を手にした西武ナインですら近鉄の奮戦に同情的だったフシもあるほどで、森祇晶監督も「この世界に生きる人間として(近鉄に)頭が下がる」と語っていた。

 ただ、この1日をロッテの立場で見てみると、違った風景が広がる。そもそも、本当に判官びいきというなら、ロッテを応援するのが正しい。ロッテは最終的に優勝した西武、そして2位の近鉄と21ゲーム差。シーズン中から身売り騒動に揺れ、ダイエーへの売却が決まった南海(現在のソフトバンク)は5位に沈んだが、その南海とも3.5ゲーム差と離されての最下位。そんな惨敗チームが、優勝をうかがうほどの強いチームに牙をむき、その優勝を阻んだのだから。5位になる可能性もなく、どうせ最下位なのだから、忖度してコロッと連敗していいという話ではない。間違っても目の前で胴上げを許す“完敗”を喫するわけにはいかないのだ。

 注目度が急上昇したことで一気に“国民の敵”のようになってしまったロッテ。特に評判が悪いのは、「延長戦で試合時間4時間を超えて新しいイニングに入らない」というルールに縛られていた第2試合での判定に対する抗議で、“5時間の壁”を築いた形になってしまった有藤通世監督だろう。近鉄の仰木彬監督から「はよ、やめんか」と言われたことに引くに引けなくなってしまった有藤監督も、指導者の経験がないまま監督となって2年目、まだまだ若い。判定に不服があれば抗議に出るのも当然のことであり、そもそも接戦でなく、近鉄がロッテをリードしていれば、抗議が“時間の壁”になることもなかったのだ。こうしたロッテの健闘をたたえる声は、残念ながら少ない。

「どうせ“敵役”ですから」


第2試合で先発して好投したロッテ・園川


 第2試合で近鉄を5回までわずか2安打、無失点に抑えたのは左腕の園川一美だ。この88年はキャリア唯一の2ケタ10勝も、リーグ最多の15敗。川崎から千葉へ、優勝とは無縁のロッテひと筋14年、常に真っ向勝負で、ほとんどのシーズンで負け越しながらも第一線で投げ続けた不屈の男だ。94年にはオリックスイチローにプロ野球で初めてのシーズン200安打目を献上し、96年には開幕投手を務めて、対するダイエーの王貞治監督に「開幕投手には格というものがあるだろう」と言われたこともあったが、ひょうひょうと投げ続けて4回まで無失点、5回に2点を失って勝利投手の権利まで残り一死というところで降板したが、勝利に貢献した。なお、この96年はキャリア唯一のゼロ勝に終わっている。88年の“10.19”では7回2/3を投げて7安打4失点の力投を見せて、熱戦を演出した。

第2試合の7回裏、起死回生の同点弾を放ったロッテ・高沢


 ついに近鉄が1点をリードして、優勝ムードが漂い始めたのが7回表だが、その裏に悪夢の、いや、起死回生の同点ソロを叩き込んだのが高沢秀昭だ。この88年は巨人吉村禎章が札幌円山球場での守備中の事故で重傷を負ったシーズンだが、それよりも前、84年に高沢も同じ札幌円山球場で守備中に骨折している。高沢は北海道の出身。地元でのケガは全治6週間の診断だったが、札幌で手術を受けて2カ月の入院、その後も長いリハビリを必要として、ようやく一軍に復帰したのは翌85年4月19日のことで、28日に復活の本塁打を放つと、二塁を回ったところから感激のあまり号泣している。しだいに骨折した右足に体重を乗せて打つことができなくなるなど、その後の打撃にも影響を与える故障だった。ただ、吉村ほどの重傷ではなかったものの、吉村ほど注目されていないのも事実だ。

「どうせ“敵役”ですから」と語っていた園川。そして実際、そうなった。ただ、正義のヒーローも強いヒールがいなければ成立せず、弱い者いじめのように見えてしまう。ロッテに“役者”がそろっていたことも、伝説の最低条件だったのだ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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