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FOR REAL - in progress -

もっと、勝ちたい――飛躍の右腕、平良拳太郎/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 いきなり最大のピンチが訪れた。

 10月22日のドラゴンズ戦。先発を託されたのは平良拳太郎だ。1回裏、ノーアウト満塁。D.ビシエドの犠牲フライで、ドラゴンズに先制を許した。

 それでも平良は踏ん張った。次打者の高橋周平は6-4-3のダブルプレー。落ち着きを取り戻し、追加点を与えることなく7回までマウンドを守った。

 先発投手としての仕事を果たしはしたが、この日は打線が沈黙した。相手を上回る6安打を放ちながらも無得点。いわゆる“スミ1”で試合は終わる。

 右腕は勝ち星を手にすることができなかった。

「どうすれば相手が嫌がるか」


 今シーズン、平良は確実にステップアップした。

 開幕から8試合連続でクオリティースタートを達成し、一時は防御率でリーグトップを争った。ベイスターズに加入した2017年から昨シーズンまでの3年間で31試合に先発。1試合の投球イニング数は6回2/3が自己最長だったが、今年は開幕から2カ月も経たないうちに4度、7回を完了した。

「しっかりと試合をつくれているかなとは思います」

 謙虚ながら、平良の言葉には充実感がにじむ。

 先発として長いイニングを投げることがずっと課題だった。その克服のために、投球に対する考え方を見つめ直した。


「(昨年までは)自分の得意球ばかりを投げていたイメージ。今年は、どうすれば相手が嫌がるかということを考えながら投げられている」

 ピッチャーズプレートからホームベースまでの18.44mという物理的距離は変わらない。ただ、心理的な距離は変わりうる。平良は少しばかり離れたのだ。そして冷静に打者を観察する術を身につけた。

 前回登板時は何を打たれたのか。先ほどの打席では何の球に手を出してきたか。いま投げた変化球にどんな反応を示したか――。そうして見えてくるものが、次の正しい一球を選択する手がかりになった。

 相手の狙いをかわすうえで、より効力を発揮するようになったのがスライダーだという。スライダーと一口に言っても、変化の仕方や速度などが異なる数種類を使い分ける。

「今年は何がいいのか」との問いに対する平良の答えがこうだった。

「やっぱりいちばんは、スライダーですかね。バッターの反応を見ながら、うまくタイミングや芯を外せているのかな、と」

 スライダーのほかシンカーやカットボールなど、操る球種自体に昨年までとの大きな違いはない。持ち物は同じでも、使い方が変わった。

 冷徹な観察眼は、制球力の向上にも寄与しているようだ。平良は言う。

「これも『バッターを見ながら』という話につながってくると思いますけど、ピッチングが窮屈になると、どうしても的が小さくなってしまう。打たれたくないので厳しくいこうとして、フォアボールになってしまったりする。でも今年は視野を広く持とうと思ってやっているので、内を突いたり、外を広く使ったりできています」

 少し離れて、ストライクゾーンは広く見えるようになった。芽生えた気持ちの余裕が、右腕の精度を高め、そして大胆にした。

勝負の9球目、選んだのは――。


 好投を続けていた平良は、8月16日のスワローズ戦で3敗目を喫する。6点を失い、4回を投げきることなくマウンドを降りた。


 アクシデントに見舞われたのは、次戦に向けての調整中だった同20日。背中の違和感を訴え、登録を抹消された。

 本人曰く「そこまで長引くとは思っていなかった」が、回復には想定以上に時間がかかった。一軍に戻ってこられたのは、およそ2カ月後の10月15日だった。

 その日のスワローズ戦で、平良はまたも痛打を浴びた。

「投げた球が全部、弾き返されたような感じでした。ファウルもとれなかったですし、まだまだ球が弱いなという感覚になりました」

 そうした状況で迎えたのが、冒頭のドラゴンズ戦だ。

「前回(スワローズ戦)、2回3失点で交代していたので、先発としてしっかりと試合をつくれるようにという強い気持ちを持っていました。それに、相手の先発が大野(雄大)さんだったので。監督にも『1点が大事になるぞ』と言われていましたし、先に点をやらないつもりだったんですけど……」

 初回に1点を失ったものの、2回以降はシーズン前半の平良が帰ってきた。スライダーを中心とした緩急自在の投球でスコアボードにゼロを並べた。

 ゲームメイクの過程、ヤマ場として25歳が挙げるのは5回だ。2アウト三塁で、打席にはヒットメイカーの大島洋平。この日、平良から2安打を放ち、安打数でリーグ単独トップに躍り出ていた。

 平良は大島を見つめた。思考を巡らしつつ、捕手の戸柱恭孝とサインを交換した。勝負は、9球目までもつれた。

 真っ先に浮かんだのは、この試合の大島はかなり引っ張りの意識が強いということだった。前の2打席で打たれた安打は、いずれも一二塁間を抜かれたもの。5回の第3打席もファウルはすべて一塁方向だった。

 打者が引っ張りにかかっているからといって、アウトコースがセーフティだとも思えなかった。「バットの軌道が合いそうな感じがした」。そうなると、投げ込むべきはインコース。かつ、ヒットにされないボール。平良が振り返る。

「インコースにカットボールを投げたときの反応がいちばんよくなかったので、その球でファウルをとりながらフルカウントになって。勝負球に何を投げようかと考えました。外めのシンカーはダメ。内のカットボールはファウルになる。そうやって消去法をとって、スライダーをひざ元に投げ込めれば空振りがとれると思った。それまでに投げたスライダーは甘く入ったりしていて少し怖い球ではありましたけど、戸柱さんがサインを出してくれたので、それになんとか応えられるようにと腕を振って投げました」

「チャンスをたくさんいただいた」


 9球目、平良が投じたスライダーは狙いどおり大島のひざ元に食いこみ、バットは空を斬った。「しっかりと駆け引きできた」。敗戦の中で得た貴重な収穫だ。


 一方、相手先発の大野はベイスターズ打線に得点を許すことなく試合終了まで投げきった。これで45イニング連続無失点を記録し、今シーズン10勝目。3勝に留まっている平良は、32歳の左腕に何を感じただろうか。

「1点もやりたくない場面でダブルプレーや三振を取れる投球術もそうですけど、メンタルもすごい。実際、打席に立ってみても、振るまで全部まっすぐに見えるんです。振って、キャッチャーの捕ったところを見て『あ、フォークだったのか』と。それくらい腕の振りが強い。やっぱり“消える球”を持っている人が抑えられるんだなと思います」


 10月24日、A.ラミレス監督が今シーズン限りで退任することが発表された。前日にリーグ優勝の可能性が消滅したことを受けての決断だった。

 平良がジャイアンツから移籍してきたのは、2016年オフ。以来、ラミレス監督の指揮下で頭角を表してきた。

「一昨年の最後(142試合目)、巨人が負けてうちが勝てばCSに出られるという試合(スワローズ戦)で先発を任せてもらいました。去年のCSの3戦目もそう。ぼくで大丈夫かなって自分でも思うようなところで使ってもらって、このチャンスを絶対ものにするんだという気持ちで投げました。そうやってチャンスをたくさんいただいたことに感謝の気持ちがあります」

 退任発表会見の中でラミレス監督は、今シーズンを終えるまでにやっておきたいことを尋ねる質問に対し「I wanna win」と即座に返した。目の前に試合がある限り、勝ち続けたいのだと。

 平良もまた、勝利を強く望んでいる。いまは3勝5敗。負け越しでシーズンを終えたくはない。

「あと何試合投げられるかわかりませんが、どんなときでも自分の投球ができるようにと思って投げてきたので。自分のスタイルを崩さず、目の前のバッターに集中する。そういう気持ちを最後まで持ち続けて終えられたらと思います」


 未曽有の混乱のなか船出した2020年も残りは11試合。支え続けてくれたファン、去り行く監督の期待に応えるため、そして自分のために、全力を尽くしてすべての試合を勝ちにいく。

横浜スタジアム開催主催試合(10/30(金)〜11/1(日))対象「みらいチケット」発売概要
https://www.baystars.co.jp/news/2020/10/1016_01.php

『FOR REAL - in progress -』バックナンバー
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写真=横浜DeNAベイスターズ
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