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球界の論点

球界の活性化を図るために――ドラフト、FA制度の問題点とは?/球界の論点

 

完全ウエーバーを受け入れる土壌


今年は10月26日に行われたドラフト会議


 ドラフト改革とフリーエージェント(FA)権取得期間の短縮は、球界の主な懸案事項の一つとして論じられ続けている。ドラフト制はプロ野球12球団の戦力が均衡するのを最大の目標としており、チーム編成の根幹。しかし、一部では「職業選択の自由や、企業間の自由な競争を阻害している」という観点から、セットとされるFA制とともに内容を見直すべきという声も根強い。

 今年で56回目を迎えプロ野球ドラフト(新人選択)会議が10月26日に行われ、12球団により総勢74人を指名した。目玉として注目を集めた早川隆久投手(早大)と佐藤輝明内野手(近大)には、1位指名でともに4球団が競合。抽選の結果、早川は楽天、佐藤は阪神がそれぞれ交渉権を獲得した。特に波乱のドラマやアクシデントもなく、「無風」のドラフトだったと言っていい。

 日本のドラフトは、本場のメジャー・リーグ(MLB)のように下位球団から30球団が順番に選手を指名する完全ウエーバー制ではなく、1位の希望選手をそれぞれの球団が入札する。重複した場合はクジ引きで決める方式だが、このユニークなルールが「運命の日」のドラマを演出している。

 日本プロ野球選手会は、以前から一貫として、「FAの短縮とセットにした完全ウエーバー制」の導入を訴えている。その主張の根拠として、「12球団の戦力均衡には一定の配慮をせざるを得ないため、ウエーバーによるドラフト制は必要。だが、長期的には所属球団の選択の自由を設けるべき」という考えがある。

 日本野球機構(NPB)が完全ウエーバー制を採用しないのは、「敗退行為が出かねないから」などの理由による。下位球団に指名優先権が与えられるとなれば、低迷する球団が有力選手を獲得するためにシーズン終盤にわざと負ける可能性がある――というのがその説明。上位指名に抽選を取り入れているのは、敗退行為を未然に防ぐという意味合いがある。

 なんでもありのひと昔前ならまだしも、現代でこの考えが適合するのかという疑問も上がっている。コンプライアンスの厳守が叫ばれ、情報化が進み、すべての言動に厳しい視線が注がれる世の中で、あからさまな敗退行為など不可能。エンターテインメント性から見れば抽選のドラマ性を是とする意見があるかもしれないが、第三者のクジ運で人生が左右されるのには違和感がある。公平かつシンプルな方法でプロ入りし、ある程度の条件をクリアすれば移籍の自由が広がるという方が選手にとっても分かりやすい。

 最近は、ほとんどの選手が「指名されれば、12球団どこにでも行く」と話すようになった。パ・リーグを中心とした2005年の球界再編をきっかけに、地域密着が進み、各球団の経営努力もあってそれぞれのブランド力が上がった。一部の球団に入団希望が偏ることもなくなり、完全ウエーバーを受け入れる土壌が整いつつある。

資格取得イコールFA選手になれば


 ドラフト改革とリンクしているとされるFA制も、さまざまな角度から論じるべきだろう。選手会が主張する資格取得の期間短縮はもちろん、制度に付随した取り決めにも要検討なものが少なくない。

 セ・リーグのDH(指名打者)制実施、補強期限や支配下枠の撤廃などさまざまな球界改革案を提起している巨人原辰徳監督は、FAについても声を上げている。「絶対に廃止すべき」と力説するのが、FA選手の獲得球団が前所属球団に代替選手を差し出す“人的補償”だ。

 選手に移籍の自由を――という趣旨で導入したルールが、一部のトップ選手にだけ恩恵をもたらし、まったく関係ない選手が余波を受けている。これがあるため、FA行使に二の足を踏む選手も少なからずいる。

 資格を取得した選手が、「権利を行使する」と宣言しなければFA選手にならない方式も見直したほうがいい。資格取得イコールFA選手となれば、裏切り者呼ばわりされることもなく、幅広くキャリアアップを熟考できる。所属球団を含めた内外の全球団と交渉することで年俸高騰化などの問題も出てくるが、球界全体で知恵を絞ればいい。理不尽な足かせで権利を制限する手法はスマートではない。

 新しい戦力はプロ野球を盛り上げるパワーを持っている。スムーズな選手の出入りはチームに活性化を生み、球界全体のレベルアップにもつながる。現在新型コロナウイルスの影響で実施がストップしている現役ドラフトも、プロ野球を変えるための一つの有効打となるかもしれない。さらなる活性化を図るためには――。球界に携わる関係者の柔軟さと行動力が求められている。

写真=BBM
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