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最後の日も笑顔――阪神・藤川球児の引退試合を共有できた幸せ

 

グラブには「応援ありがとう」


引退セレモニーで最後まで笑顔だった藤川


 笑顔の引退試合だった。いつもの登場曲が流れる中、ブルペンで“力水”を飲み、仲間たちに拍手で送られながらリリーフカーへ。通算782試合目のマウンドへ向かう藤川球児の表情は穏やかで、自身に降り注ぐ大歓声を楽しんでいるように見えた。実際の家族の前で、そして9月1日の引退会見で「家族」と呼んだファンの前で感謝の思いを伝えるラストピッチ。誰よりも家族を大切にする藤川にとって、この状況が楽しくないはずはない。グラブには「応援ありがとう」の文字が刻まれていた。

 0対4のビハインドで迎えた9回表のマウンド。巨人原辰徳監督の計らいにより、これまで幾度も熱戦を繰り広げてきた坂本勇人中島宏之が代打に送られた。重信慎之介を含め打者3人に投じた12球はすべてストレート。現役時代、誰よりも藤川の球を多く受けてきた矢野燿大監督は「打ち取り方まで求められる投手」と表現していたけれど、この日マスクをかぶった梅野隆太郎も同じ思いだったに違いない。

 球速はすべて140キロ台後半。MAXは149キロだった。藤川は試合後の会見で「明日投げればあと1キロ出る」と話したようだが、きっと出る。そう思わせるボールだった。ただ、右ヒジは手術が必要な状態で、ヒジをかばうため肩にも影響が出ているという。もはや責任を持ってマウンドに上がれる状態ではない。だからユニフォームを脱ぐ決心をした。決して余力を残してやめるわけではない。振りかぶって投げてみたり、打者の豪快な空振りに笑顔を見せたり。まるでオールスターゲームのようにピッチングを楽しんでいたのは、「粉骨砕身」ギリギリのところまで戦い続けた男にしかできないことだ。

ファンと存分にコミュニケーション


 引退セレモニーも笑顔だった。かつての盟友ジェフ・ウィリアムス久保田智之、同世代で現役を続ける和田毅、藤川が「その存在が自分を成長させてくれた」と話す清原和博、子ども時代にあこがれの存在だった斎藤雅樹……ゆかりの人々からのビデオメッセージに藤川は、無邪気な笑顔で、時に深々と頭を下げながら耳を傾けていた。

 スピーチでは自分を支えてくれた方々へ感謝の言葉を紡いだ。少しうつむくシーンもあったが、「がんばれ、球児!」の声に上を向き、「大丈夫です」と余裕の笑顔。花束贈呈にはリリーフとして才能を開花させてくれた岡田彰布元監督が登場し、矢野監督のミットめがけて最後の1球を投じる演出もあった。グラウンド一周では大きく手を振り、ジェスチャーで語り掛け、写真用にポーズを取り……ファンと存分にコミュニケーションを取る姿はいかにも藤川らしかった。そして、ホームベース付近に立って360度に頭を下げると、思い出がたくさんつまった甲子園のマウンドで記念撮影。試合前の始球式では長男が投げ、父が受ける親子バッテリーも実現していた。ラスト一日も全力投球した藤川。その時間を共有できたことを幸せに思う。

文=岡部充代 写真=毛受亮介
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