一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、（平日だけ）1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

王は挫折感でいじける心配はない

　今回は『1972年４月10日号』。定価は120円。

　水原茂元監督の連載「私の手がけた選手群像」。最終回に登場したのは、やはりON。まずはコーチ兼任となった長嶋茂雄から行く。
　水原が最初に長嶋を見たのは、57年秋のリーグ戦、立教時代の姿だった。この試合で長嶋は三塁打。水原は、
「非常にバッティングがいいし、プレーがダイナミックだ。足も速い。そのときの三塁打も足で稼いだものだった」
　水原は「これは絶対にすぐ使える」と思ったという。明石でのキャンプでもその確信は変わらず。新人ですぐ使えるという確信を持てたのは、「長い監督生活でも長嶋ただ一人」と話している。
　つまりは王貞治、張本勲にも感じなかったということだ。
　さらに、水原はさらに「長嶋のバッティングはいじるな」とコーチ、先輩選手に指示した。
　まさに破格のルーキーということだろう。

　一方の王貞治は、投手としての入団も、スピードがとてもプロで通用しないと打者に転向させた。ただ、打者としても「これほど大きく飛躍するとは思えなかった」という。
　それでも最初から使おうと思ったのは、王を将来的には主力選手にしようという考えとともに、性格もあった。
「新人時代は『新人の俺は打てなくても当然だ』と割り切る。変にいじけた考えにならないで、また新しい気分を新しくして挑戦していく。だから挫折感にさいなまれてダメになってしまうという心配は王にはなかった」
　王、王、三振王とヤジられた時代の話だ。

　では、また火曜日に。

＜次回に続く＞

写真＝BBM