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【MLB】監督かデータか記者か ゴールドグラブ賞は誰が選ぶべきか?

 

今季2勝のみのカニングがア・リーグの投手部門のゴールドグラブ賞に。今季はSDIというデータを基にした参考だったが、今後さらに議論をしていく必要がありそうだ


 MLBのゴールドグラブ賞はこれまでは基本的に監督の投票で決まってきた。だが今季は同地区内の対戦だけで、どの監督も他地区の選手のプレーを見ていないため、比較できないとデータで決めることにした。

セイバーディフェンシブインデックス(SDI)である。守備のうまさで失点をいくつ防いだか(DEFENSIVE RUN SAVED)、守備範囲がどれくらい広いか(ULTIMATE ZONE RATING)など、全部で5つのカテゴリーがある。その結果、18人のうち11人が初受賞となった。

特にア・リーグは9人中7人が初。しかも負け越しチームのマリナーズから2人、レンジャーズから2人と意外な選出だった。ア・リーグ投手部門で3人のファイナリストの一人だった前田健太を破り、初受賞のエンゼルスのグリフィン・カニング投手もその一人だ。

 エンゼルス記者団の中心的な存在であるオレンジカウンティ・レジスター紙のジェフ・フレッチャー記者は発表前に「彼がファイナリストに選ばれたことに驚いた」と言っていた。昨季は5勝6敗、防御率4.58、今季は2勝3敗、防御率3.99の投手。投手としては打たれているわけで、その中で守備が多少良くても印象に残らないのだろう。受賞後のズーム会見を見ると、そう思っていたのはほぼ全員の番記者だと分かった。

 選ばれて驚いたかと聞かれたカニングは「セーバーメトリックスを使うし、例年とは違うのは分かっていた。ただ通常はザック・グリンキーのような実績のある選手が獲る賞だから、こうやって守備を認めてもらえたのは良かった」と語った。

 ゴールドグラブについては前から、以前の評判だけで決めていると批判があった。ミネアポリス・スタートリビューン紙のベテラン記者ラベル・E・ニールは「監督は自分のチームのことで忙しいから、14球団のよその選手がどれくらい守備がうまいかとかリサーチはろくにしない。だからすでに出ている評判で投票する。覚えているのはある年、一塁を12試合しか守らなかったラファエル・パルメーロが一塁でゴールドグラブに選ばれたことがあった。ひどい話。だから新しい選択方法を試すのは良いことだと思う」と言う。

 とはいえ問題はどんなデータが使われているかだ。フレッチャー記者は「守備の優秀性をどう計ればいいか、まだ誰も知らない。現時点でのSDIについてはどうかと思う」と指摘する。スタットキャストの出している新たな指標で「(平均以上のアウト)OUTS ABOVE AVERAGE(OAA)」というものがある。これなどは良いと思うのだが、2020年シーズンのランキングで1位のコーディ・ベリンジャー、2位のフェルナンド・タティース、4位のジャッキー・ブラッドリー・ジュニアはいずれもファイナリストにも入らなかった。

 やはりSDIはどうかと思う。筆者はゴールドグラブも記者投票にすれば良いのではと思っている。MLBではMVPやサイ・ヤング賞を記者投票で選ぶが、勉強熱心な記者が多く、データの妥当性をよく吟味した上で判断している。

 守備についても、彼らに良いデータかどうか考えてもらえばいい。いろいろなものが急速に科学的になっていくMLBで、ゴールドグラブ賞は明らかに遅れていた。今回を契機に、より良い投票システムに進化していくのではと期待している。 

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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