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プレートの一塁側を踏む場合と三塁側を踏む場合に、それぞれどんなメリットが?【前編】/元阪神・藪恵壹に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。

Q.2020年の巨人と阪神の開幕戦(東京ドーム)のことです。巨人先発の菅野智之選手はプレートの左端(三塁側)を踏んで投げ、一方の阪神先発の西勇輝選手は真逆の右端(一塁側)を踏んで投げていました。それぞれどんなメリットがあるのでしょうか。(神奈川県・28歳)



A.プレートの位置を決める一番の理由になるのが、どのようなボールを武器(勝負球)にしたいかです
 

プレートの一塁側を踏んで投げる西


 まず、バッターに与える印象が異なります。例えば巨人菅野智之選手のようにプレートの左端(三塁側)を踏んでいる場合、右バッターには近く見えますが、左バッターからは遠く見えます。阪神・西勇輝選手のようにプレートの右端(一塁側)を踏んでいる場合はその逆で、左バッターからは近く見え、右バッターからは遠く見えます。

「わずかな違いでしょ?」と思うかもしれませんが、18.44メートルという短い距離の勝負、駆け引きが行われており、ピッチャーの指から放たれたボールは、コンマ何秒でキャッチャーミットに到達します。わずかな違いが大きな違いを生むことを忘れないでください。ちなみに、投手板(プレート)の横幅は24インチ(61センチ)と定められていますが、菅野選手と西選手にはそれだけの違いがあるわけです。

 プレートの位置を決める一番の理由になるのが、どのようなボールを武器(勝負球)にしたいか、ということです。菅野選手はいろいろな球種が一級品ですが、特に外角低めに鋭く滑るスライダーが一番の持ち味。彼がプレートの三塁側を踏んでこのボールを投げると、右バッターから見れば自分の背中側から腕が出ててどんどん遠くに逃げていくように感じますし、左バッターならかなり遠くから内側に切り込んでくるボールに感じるはずです。

 一方、西選手は鋭い変化のシュート(ツーシーム)が持ち味ですが、彼がこのボールを一塁側を踏んで投げると、右バッターには自分に向って食い込んでくるボールに見えますし、左バッターにはどんどん逃げていくボールに見えるはずです。どちらの選手のボールも対処は簡単ではなく、事実、このボールを1つの軸にして2人は成績を残していますね。

イラスト=横山英史


 西選手のように一塁側を踏むと、距離的に右バッターのアウトコース、左バッターのインコースが、三塁側を踏むよりも近くなり、意識的に強く投げ込める、というメリットがあります。また、このプレート位置で投げると、必ず右腕が61センチの幅のあるプレートの上(中)を通ることになり、放たれたボールは必ずストライクゾーンの延長線上を通ってくることになります。そのまま収まるか、ゾーンから外れていくかなのですが、制球力のいいピッチャーはギリギリまでゾーンに乗せて最後の最後にゾーンを外すという高等技術でバッターのスイングを誘っています。それが可能なプレート位置といえると思います。

<「中編」に続く>

●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

『週刊ベースボール』2020年11月16日号(11月4日発売)より

写真=BBM
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