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プロ野球20世紀・不屈の物語

プロ野球選手とメガネ。不振を抜け出せなかった男、“打撃開眼”した男/プロ野球20世紀・不屈の物語【1977〜93年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

大洋では田代とポンセが


86年、メガネをかけてプレーする大洋・田代


 不老不死は古くから人類の夢であり、幻でもある。そこには多少の個人差があるだけで、例外なく誰もが背負っている運命だ。もちろん、プロ野球選手にも老いは訪れる。年齢を重ねても現役を続けている選手は、そんな運命とも戦っているといえるだろう。それでも近年は、スポーツ科学の発展などもあって、選手生命は全体的に長くなってきた。選手たち個々の努力はもちろんだが、こうした研究で選手たちを支えてきた人たちの貢献度は、はかりしれない。

 20世紀から活躍してきた中日山本昌(山本昌広)が50歳で現役を引退したのは5年前、2015年のことだが、今後、山本昌よりも長寿、高齢でプレーする選手が登場することもあるだろう。ただ、どんなに体が万全でも、結果を残せなければ引退を余儀なくされる。近い未来に、老いと戦う選手にとっても、こうした選手をフォローする立場の人々にとっても、特に打者であれば、“最後の砦”として立ちはだかってきそうなのは視力の衰えではないだろうか。

 メガネやコンタクトレンズで克服できることもあるかもしれない。ただ、それまで無縁だったメガネなどを急に導入すると、絶頂期の落合博満ではないが、たかが日常生活の場面でも、微妙ながら決定的な感覚の齟齬に気づかされるものだ。最近になってメガネを採り入れざるを得なくなった年齢の読者には、それなりに共感してもらえる気がする。これがミリ単位の違いが大きな結果の違いにつながるプロ野球の世界であれば、たとえ小さな傷でも、いつしか致命傷になりかねない。実際、20世紀のプロ野球では、現役の晩年にメガネをかけながら打撃に苦しんだ打者の姿が散見された。

 三振かホームランか、という豪快な打撃で人気を集めた大洋(現在のDeNA)の田代富雄も、そんな選手の1人だった。5年目の1977年に35本塁打を放つブレークも、118三振で“三振王”に。豪快ながらも、もろい。あぶなっかしい打撃は以降も続いたが、それが当時、連勝して浮上しても連敗して一気に沈み込むような当時の大洋を象徴しているようでもあり、看板選手としてファンに愛された男だ。だが、86年に左手首を骨折したこともあり、しだいに本塁打のインパクトよりも三振の量産が残す印象のほうが強くなっていく。そのころからメガネをかけて打席に立つようになったが、不振から抜け出すことはできなかった。

 同時期の大洋には、87年から2年連続で打点王に輝いた勝負強い打撃と、人気ゲームの主人公に似た風貌で“マリオ”と呼ばれたポンセも、不振に陥った90年に、ゲンを担いでヒゲを剃っただけでなく、遠視が不振の原因とされたことからメガネをかけて打席に入ったが、やはり不振からの脱却はならず。オフに退団、帰国している。

ヤクルト黄金時代はなかった可能性も?


ヤクルト・八重樫のオープンスタンス


 田代やポンセと対照的に、メガネをかけたことで“打撃開眼”を呼び込んだのがヤクルトの八重樫幸雄だった。メガネ姿になったのは30歳を過ぎてから。それまでは大矢明彦の存在もあって控え捕手だったが、打席に立つとメガネのフレームが視界を妨げるため、極端なオープンスタンスに打撃フォームを改造、そこに中西太コーチの指導も追い風となって、プロ15年目、33歳の84年に正捕手となり、翌85年には初の打率3割を突破、ベストナインにも選ばれた。

 その後は秦真司の成長もあって、ふたたび控えに。90年に正捕手となったのが、やはりメガネの古田敦也だったが、野村克也監督が「メガネの捕手は……」と獲得に難色を示したことは有名な逸話だ。そんな古田も、高校時代にメガネをかけていることからプロをあきらめかけたことがあったという。

 古田が司令塔としてヤクルトを14年ぶりのリーグ優勝に導いた92年のヤクルトには、右の代打として存在感を放つ八重樫の姿があった。八重樫は翌93年にヤクルト2度目の日本一を見届けて現役を引退。42歳、プロ25年のキャリアをまっとうした背番号28の鉄人でもある。

 ちなみに、田代も低迷したままでは終わらなかった。レギュラーだけでなく、全盛期のスイングからも遠ざかっていたが、91年の引退試合では豪快な満塁弾。「19年間、ほんとうに気を抜かずにやってきた。あれは野球の神様が最後に大きなプレゼントをくれたんだな」(田代)

 もちろん、メガネも年々、進化を遂げている。少年時代からブルーライトにさらされていそうな昨今のプロ野球選手。彼らとメガネの関係にも“注目”だ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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