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バレンティンを超える飛距離でブレークした「格安助っ人」とは 

 

来日1年目に本塁打、打点の2冠王


中日1年目から破壊力抜群の打撃を見せたブランコ


 2013年にヤクルトで日本記録の60本塁打を樹立したバレンティンとタイトル争いを繰り広げ、「飛距離はバレンティンより上」と呼ばれた助っ人がいた。中日、DeNAオリックスで来日通算181本塁打をマークしたトニ・ブランコだ。

 ブランコがメジャーでプレーしたのは05年の1年のみ。56試合出場で打率.177、1本塁打、7打点と結果を残せず、翌年からルーキーリーグと2Aを往復していた。転機は08年の冬。母国・ドミニカ共和国のウィンター・リーグに参加した際、視察に訪れた森繁和コーチに規格外のパワーを評価されて、09年に中日に入団する。

 前年退団したタイロン・ウッズに代わる大砲の触れ込みだったが、年俸はウッズの20分の1以下の30万ドル(約2700万円)。格安で獲得した長距離砲に対し、シーズン前は「あの粗いスイングでは変化球中心の日本の野球には対応できない」、「落ちる球はすべて振る。1年も持たないのでは」など評論家から辛辣な声が少なくなかった。

 しかし、この低い評価を見事に覆す。09年4月3日の開幕・横浜戦で三浦大輔のスライダーをナゴヤドームのバックスクリーン中段に運ぶ来日初打席初アーチとド派手なデビューを飾ると、同月19日の巨人戦では高橋尚成からナゴヤドームの3階席に運ぶ特大アーチ。その飛距離は過去の長距離砲と比べても次元が違った。5月7日の広島戦では前田健太から振り抜いた左翼方向の打球がグングン上がると、ナゴヤドームの高さ50メートルの位置に設置した天井スピーカーに直撃。推定飛距離160メートルの大飛球でナゴヤドーム初の「認定本塁打」を記録した。

 ブランコのアーチは打った瞬間に外野手が途中で追うのをあきらめる打球がほとんどだった。よく飛ぶ上にライナー性の弾道で速い。引っ張りでなく、バックスクリーンから右へ広角に本塁打を打てるのも大きな魅力だった。来日1年目は四番で全試合出場し、打率.275、39本塁打、110打点。本塁打王と打点王の2冠に輝いた。

 ただ1年目のシーズン終盤から相手の徹底マークに遭い、ストライクが来なくなる。10年はボール球になる変化球に手を出して打撃不振に。右手中指を故障し、ファーム降格も味わった。打率.264、32本塁打と前年より成績を落とすと、11年は16本塁打、12年は24本塁打と2年連続100試合出場にも満たなかった。

新天地で初の首位打者


中畑清監督(左)率いるDeNA1年目の13年には首位打者に輝いた


 13年にDeNAへ移籍。当時中日の高木守道監督から「ブランコなんて三振、三振、三振だ。落ちるボールを放っときゃいいわ!」と入団が決まる前から「口撃」を受けたが、開幕から本塁打を量産する。4月に5試合連続アーチを含む球団記録の月間14本塁打。豪快な一撃だけでなく、得点圏の好機では軽打で走者をかえすなど打撃技術に進化が見られた。

「横浜スタジアムは小さいのでうまく(本塁打を)打ちます。自己ベストを更新できれば」と話していたが、打率.333、41本塁打、136打点と有言実行の活躍で自身初の首位打者と2度目の打点王を獲得。同年にバレンティンが日本記録の60本塁打を樹立したため、三冠王はならなかった。ブランコは週刊ベースボールのインタビューに、「彼は天才。身体能力も高い。ただここまで一生懸命やってきて、ああやって55本の日本記録を破り、さらに60本塁打の新記録をつくったのを見ると、自分たち外国人選手にとっても自信につながる。これから日本に来る選手にとってもそうだし、僕も同じラテン人として彼ができるのであれば自分もできるはずだという気持ちになれた」と称えていた。

 さらなる活躍が期待されたが、良い状態を継続できないのが課題だった。翌14年は度重なる足の肉離れの影響で85試合出場にとどまり、打率.283、17本塁打、60打点。同年限りで退団すると、オリックスへ。しかし、明らかに体重が重くなり、体のキレが失われていた。開幕直後の4月1日に左ヒザの故障で登録抹消されると、復帰後も8試合目で四球を選んだ際、右股関節付近を痛めて再び登録抹消。プレーできる体ではなかった。52試合出場で打率.194、9本塁打に終わると、翌16年も27試合出場で打率.218、3本塁打。同年限りで日本球界を去った。

 NPBで8年間プレーし、通算750試合出場で打率.272、181本塁打、542打点。立派な数字だが、シェイプアップされた体で試合に出続ければ……。この倍以上の本塁打を打っても不思議ではない。そう思わせるほどのロマンを抱かせる長距離砲だった。

写真=BBM
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