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背番号物語

【背番号物語】巨人「#1」王貞治の“もうひとつの顔”。その“第1号”は選手としての出場なきプロ野球のレジェンド?

 

唯一の存在


巨人で永久欠番となっている王の背番号「1」


 プロ野球の選手にとって、もうひとつの顔ともいえる背番号。選手の顔を見たら背番号の数字が思い浮かび、背番号を見れば選手の名前を思い出す。背番号は選手の象徴ともいえる存在だ。そして、その選手が引退すれば、その背番号は次世代の選手に継承されていき、これが長い時間の中で繰り返されることで、独特の物語が紡がれていく。この連載では、そんなプロ野球の背番号物語を、それぞれチーム別に振り返ってみたい。

 背番号の世界で、最初に数えられる数字は「1」。より小さい数字もあるが、数字の世界でも圧倒的に歴史が短く、まず「1」の物語から始めてみる。一方、プロ野球のチームで第1号は巨人だ。ただ、巨人の「1」は、継承されない特別な背番号となっている。いわゆる永久欠番だ。プロ野球の歴史に詳しい人には釈迦に説法かもしれないが、巨人の「1」は通算868本塁打を残した王貞治の永久欠番となっている。王は早実のエースとして2年の春に優勝、夏にはノーヒットノーランを飾り、投手として1959年に入団。すぐ打者に転向、1年目から一軍に定着して、27打席目の初安打を本塁打で飾った。62年に“一本足打法”で才能に花を咲かせ、本塁打王15回、打点王13回、首位打者5回で三冠王は2回、MVPは9回。長嶋茂雄との“ON砲”は巨人に空前絶後のV9を導いた。

 80年までプレーを続けた王は、そのまま翌81年に助監督に就任して、84年には監督に。88年まで務めたが、最後まで「1」を背負い続けた。通算30年は巨人の「1」を着けた選手の中でも最長。“一本足打法”の王は現役時代に“ビッグ1”とも呼ばれ、ピンクレディーの『サウスポー』でも歌われ、プロ野球を離れたところでも存在感を放つなど、王の背番号1は、まさに“もうひとつの顔”といえる。永久欠番に制定されたのは89年3月16日で、20世紀で最後の永久欠番だ。王の圧倒的な活躍もあり、各チームでも王が持つ長距離砲というイメージを超えて、“チームの顔”というべき選手が背負い、王と同様に“もうひとつの顔”へと昇華させてきたが、2021年が始まったばかりの現在、唯一の永久欠番でもある。

 一方、王の存在によって物語が途切れることになった巨人の「1」だが、王が背負う前の歴史をさかのぼってみると、すこし違った風景が見えてくる。

【巨人】主な背番号1の選手
白石敏雄(1948〜49)
南村不可止(1951〜57)
王貞治(1959〜88。永久欠番)

プロ野球が始まる前に


巨人で王の前に背番号「1」を着けていた南村


 王の前に「1」を着けていたのは南村不可止(侑広)で、南村にとって巨人は2チーム目。2リーグ分立とともに創設された西日本でも「1」を着けていた南村は、西日本が西鉄(現在の西武)に吸収される形で合併となったことで巨人へ移籍して、そのまま巨人の「1」となった形だ。

 その前が巨人の創設メンバーでもある名遊撃手の白石敏雄だが、白石は2リーグ分立で故郷に創設された広島へ移籍したことで「1」が空席となったもの。白石も戦後の48年に巨人へ復帰して2年間だけ着けたに過ぎない。ただ、白石の前に「1」だった山田潔も遊撃手。だが、その前、実質的な“第1号”といえる林清一(清光)は外野手で、「1」の系譜には一貫性のようなものはなく、“チームの顔”という印象もない。林はプロ野球が始まった36年に「1」を着けると、兵役を挟んで40年に復帰してから43年まで背負った。ただ、巨人の歴史はプロ野球より古く、それ以前にも系譜が存在するのが巨人ならでは、唯一の部分だ。

 林の前に「1」だった田部武雄は公式戦でプレーする前に巨人を去ったが、その前の“第1号”は、やはり選手としてはプロ野球の経験はないものの、審判としてプロ野球の礎を築いた二出川延明。35年のアメリカ遠征で副将を務め、36年には名古屋に誕生した金鯱の兼任監督となった外野手だが、出場のないまま引退して審判に転じている。ちなみに、金鯱は翼(東京セネタース)と合併して球史の中に消えた。

 一方、その後もプロ野球に携わり続けた二出川。南海(現在のソフトバンク)の皆川睦男(睦雄)が投じたド真ん中へのストレートを「気持ちが入っていないからボールだ」と判定、巨人の契約“第1号”三原修(脩)が西鉄の監督として抗議したときには「俺がルールブックだ!」と一蹴するなど、名物審判としても球史に名前を刻んでいる。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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