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プロ野球回顧録

【背番号物語】巨人「#14」戦火に消えたエースのナンバーを戦後に継承した2人の男

 

プロ野球の幕開けとともに


巨人で背番号「14」を着けた沢村


 巨人の背番号で、プロ野球が始まった1936年から選手、監督が着けていたのは「1」から「22」で、そのうち「6」と「16」だけが欠番だったが、その20の背番号の中で、この2021年が始まるまで、もっとも欠番だったシーズンが多く、そして長いのは「14」。ただ、その1936年から終戦までは1人の男しか背負っていない。沢村栄治。その名は現在も沢村賞に残されているから、21世紀に生まれた若いファンも名前は知っていることだろう。

 いや、20世紀どころか、昭和、それも戦後に生まれた古いファンも、沢村のことは名前と伝説しか知りようもない。沢村がプレーしていたのは戦前から戦中にかけて。日本が第二次世界大戦に突き進み、戦局の悪化に歯止めがかからなくなっていた時代だ。プロ野球の選手たちも、ほとんどが武器を持ち、少なからず戦火に消えていった。沢村も、そんな1人だ。それでも、その名前だけでなく、逸話も現在まで語り継がれている。プロ野球の歴史で、もっとも速い球を投げたのは誰か。そんな話題では、必ず沢村の名前が挙げられる。ただ、沢村のキャリアのうち、もっとも速かったのはプロ入り前の時期だったともいう。

 この2021年は初詣を自粛して新年を迎えた実感の沸かない人も少なくないことと思う。日本人の“心のふるさと”ともいわれる神宮(伊勢神宮)のほど近くで、沢村は生まれた。宇治山田の駅前には、天を貫くように左足を上げる沢村の銅像が建てられている。幼少期は体が弱かった沢村だが、なかば強制的に父から野球をやらされたことが運命を変えた。しだいにたくましくなり、野球、それも速球を投げることに沢村は夢中になっていく。そして全国少年大会で注目され、京都商へ。浮かび上がる速球だけでなく、落差の大きなドロップでエースとなり、1934年に読売新聞が第2回の日米野球を企画すると、中退して全日本に参加。来日した大リーグ選抜と対決することになる。

 各地で全18試合が開催され、全日本は18敗。しかも、ほとんどが一方的な展開の完敗だった。唯一の例外が11月20日に静岡の草薙球場で行われた試合だ。先発したのが沢村で、ルー・ゲーリッグ(ヤンキース)のソロを浴びたのみで完投。1点差の惜敗だった。そのまま沢村は巨人の前身、大日本東京野球倶楽部の結成に参加。アメリカ遠征にも加わって、21勝8敗1分と投げまくっている。そんな“スクール・ボーイ”の快投はアメリカでも報じられ、日本にプロ野球が誕生する機運を高める一助となったことは間違いないが、このときの酷使が沢村の肩やヒジにダメージを与えていたのも確かだろう。ちなみに35年、大日本東京野球倶楽部での背番号は「17」。チームが巨人となり、沢村の「14」が誕生する。

断続的な系譜


 沢村はMVPと最優秀防御率が1度ずつ、最多勝は2度。ノーヒットノーラン3度は現在もプロ野球の頂点に輝く。ただ、沢村の「14」は、この間も断続的。36年から37年、40年から41年、そして43年だ。違う背番号を着けていたわけではない。巨人の「14」が欠番となっていた間、沢村は応召していたのだ。

 最初の兵役ではマラリアを患い、左の掌を銃で撃ち抜かれて、40年に復帰したときには持ち味の速球は輝きを失っていた。それでも投球術を駆使して3度目のノーヒットノーランを達成したが、2度目の応召では手榴弾を投げて肩を痛め、43年に復帰してからはサイドスローで投げるなど1勝も挙げられず。代打で出場したのを最後に、オフに解雇された。その後、3度目の応召。沢村が乗り組む輸送船が沈没したのは44年12月2日のことだという。

 そして45年8月15日、終戦。プロ野球は早くも11月の東西対抗戦で復活の号砲を打ち鳴らした。44年は戦局の悪化により背番号が廃止された唯一のシーズンだが、巨人の「14」は戦後、その44年に巨人へ入団して2試合に出場した今泉勝義に与えられる。だが、今泉は1試合も出場しないまま退団。新たに坂本茂が背負い、47年まで「14」でプレーした。沢村の「14」が永久欠番となったのは、その47年オフのことだ。ちなみに、同時に退団した坂本は国民リーグに転じ、2リーグ分立で近鉄の創設に参加。「3」を着けて52年までプレーしている。

【巨人】主な背番号14の選手
沢村栄治(1936〜37、40〜41、43)
坂本茂(1946〜47)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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