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バットを振り上げた東映・大杉勝男の後悔/週べ回顧1972年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

大杉がこだわっていた連続試合出場記録


東映・大杉


 今回は『1972年5月29日号』。定価は100円。

「この一発は一生忘れられないかもしれない」
 3年連続本塁打王にひた走る東映・大杉勝男がそう言って声を震わせた。
 5月9日、南海戦(後楽園)でのホームランだが、実は、試合展開の中で、この一発が特段、劇的な場面で出たというわけではない。
 話は3日前にさかのぼる。6日の近鉄戦(日生)の7回裏、芝池博明から右ヒジに死球を受けた大杉は、バットを振り上げてマウンドの芝池に向かってダッシュ。芝池が逃げて事なきを得たという事件があった。
 これにスタンドのファンが激怒。試合は14分間中断し、東映の一塁コーチが石をぶつけられるアクシデントも起こった。

 翌日、東映は完全休養日。球団代表から呼び出された大杉は、「もしかしたら出場停止か」とあせったという。
 実は大杉の密かなこだわりが連続試合出場だった。
「飯田(徳治)さん(南海ほか)の記録(1246試合)に追いつきたいと密かに思っていた。この夢が水の泡になってしまうのか……」
 と思ったからだ。 
 だが代表からは注意だけ。
「あなたはプロ野球を代表するスター選手です。子どもたちの夢をつぶすような軽はずみな行為は慎むべきです。これからその分をグラウンドでしっかり働いて、ファンにお詫びしなさい」

 ほっとするとともに、急に恥ずかしくなった。「やらなきゃ」と気持ちが燃えたという大杉は、
「もう二度とバカな真似はしません。グラウンドの恥はグラウンドで取り戻します」
 と誓った。

 ただ、まあ、近鉄ナインは案外呑気で、芝池を、
「逃げることはないだろう。お前がマウンドに突っ立っていればよかったのに。お前が殴られていたら、今頃、大杉はブタ箱に入っているよ」
 と物騒な冷やかし。
 対して芝池は、
「他人事と思っていい加減なことを言うな。大杉にバットで殴られたら、俺は死んでしまう」
 と怒っていた。

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM
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