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小久保、鳥谷らの獲得に尽力した名スカウト “第2の人生”で生かす古葉監督から学んだこと

 

人と人との「縁」


阪神・虎風荘の副寮長だった池之上格氏は、昨季限りで同球団を退団した。今年1月からは(株)SEHIRO(大阪府門真市)に勤務。社訓・理念の「ご縁に感謝」を胸に、全力投球だ(写真提供=池之上格氏)


 1987年から2年間、横浜大洋(現DeNA)でプレーしていた池之上格内野手は、ベンチに控える指揮官の動きに驚いた。古葉竹識監督は自ら「ツーアウト!! ツーアウト!!」と、大きなジェスチャーを交えて、グラウンドで守る選手たちに指示を出していたという。広島でリーグ優勝4度、日本一3度の名将は、何よりも「危機管理」を徹底していた。

「チームとして、ちょっとしたミスが命取りになります。プロ入団時、南海を指揮していた野村監督(野村克也)も言っていましたが『先入観は悪』だ、と。当たり前。分かっているだろう? というのが一番、怖いんです」

 池之上氏は鹿児島県屈指の進学校・鶴丸高から73年ドラフト3位で、投手として南海に入団した。通算2勝を挙げ、80年に内野手へ転向し、ユーティリティープレーヤーとして活躍。自由契約を経て、テスト入団した横浜大洋を通じて、計16年の現役生活だった。

1987年、大洋時代の池之上氏(写真=BBM)


 引退後は横浜大洋でのスコアラー1年を経て、90年からダイエー(現ソフトバンク)のスカウトを10年務め、2001年からは15年間、阪神のスカウトを歴任した。現在のような1位同時入札、2位はウエーバー順(3位は逆ウエーバー、以下繰り返し)のドラフト制度ではない。大学生・社会人の有力選手が「意中の球団」を選択できる「逆指名」(93〜00年)、「自由獲得枠」(01〜04年)、「希望入団枠」(05〜06年)という、厳しい時代を過ごした。

 つまり、スカウトとして必要とされる労力、人脈、誠意、熱意を兼ね備えていなければ、生きていけない。池之上氏はこうした荒波の中で、結果を残してきた。ダイエーでは小久保裕紀(現ソフトバンクヘッドコーチ)、井口資仁(現ロッテ監督)、阪神では安藤優也(現阪神コーチ)、鳥谷敬(現ロッテ)、能見篤史(現オリックス)らの獲得に尽力した。

 スカウトとして重要視してきたのは、人と人との「縁」。各現場での指導者、選手のほか、顔を合わせたすべての人との出会いを、大事にしてきた。「一期一会」の精神で義理、人情、思いやりを積み重ねてきたのである。

基本的な確認の徹底


 スカウト部門を離れてからは、編成・企画部門を3年、19年からは2年間、副寮長を務めた。昨季限りで阪神を退団することが11月末に「公」となると、池之上氏の下には、すぐに新たな仕事の依頼が届いた。

 物流会社の(株)SEHIRO(大阪府門真市)である。1月からシニアマネジャーとして勤務。70人のドライバーとのグループLINEを通じた業務連絡・管理を担当している。

「安全第一。気を付けて頑張ってください、とメッセージを送信するのが私の役割です。運転手から反応があれば、一人ひとりに返信します。どんな言葉を送れば、胸に響くのか。いつも、そんなことを考えています」

 そこで、あらためて気づいたのが、横浜大洋での記憶である。

「プロ野球界から離れましたが、サラリーマンも一緒。一つの小さな過ちが、大きなミス(事故)につながる。当たり前のことを、当たり前に。基本的な確認を徹底しています。管理している人間というのは、常に見られているということも、忘れてはなりません」

 同社の社訓・理念は「ご縁に感謝」。池之上氏はドライバー70人との接点を大切にしており、愛情を持って関わる。運転技術が高いベテランこそ、油断は禁物だ。古葉監督から学んだ「危機管理」。常日ごろから、コミュケーションと声かけを実践している。管理部門からの熱き思いがドライバーへ伝われば、同社が目指す「顧客第一」につながるわけだ。

「NPB在籍は計47年。ダイエーを退団し、阪神へ入団するまでに1年のブランクがあるんですが、その1年も自分を磨くために、プロ意識で過ごしてきました(世界少年野球推進財団に勤務)。どの仕事においてもオファーに応え、死力を尽くすのがプロ。一生感動、一生青春、一日一生を心に秘めて、過ごしています。今年は私にとって、プロ49年目です」

 18年に甲状腺乳頭がんを患い、約7時間の手術を受けた。声を失うリスクもあったが、無事に成功。66歳。日々、人と向き合う「縁」と、生きていることに「感謝」している。

文=岡本朋祐
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