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プロ野球回顧録

巨人の坂本勇人を発掘 現役時代に「悲運の天才打者」と呼ばれた名スカウトは

 

二軍では結果を残すも……


ドラフト1位で巨人に入団し、スラッガーとして期待が高かった大森


 今から15年前の2006年高校生ドラフト。1位指名で駒大苫小牧高・田中将大に4球団、愛工大名電高・堂上直倫に3球団が競合した。堂上を指名したのは巨人、阪神中日。このときに当時全国的には無名だった光星学院高(現八戸学院光星高)・坂本勇人の1位指名を積極的に進言したスカウトがいた。大森剛だ。中日が堂上の当たりクジを引き、巨人は「外れ1位」で坂本を獲得する。2年目から不動の遊撃手として活躍し、昨年は通算2000安打を達成した活躍は詳しく言及するまでもないだろう。大森の存在がなかったら、「巨人・坂本」は誕生しなかったかもしれない。

 大森は1967年生まれで桑田真澄清原和博と同学年の「KK世代」。中3のときにPL学園高(大阪)の練習会に参加し、左のスラッガーとしてすさまじい打球を連発する姿に周囲がどよめいたという。高校は高松商高に進学する。入学すると間もなくクリーンアップに座り、1年夏に甲子園に出場。優勝したのは同じ1年生の桑田、清原が大活躍したPL学園高だった。

 甲子園出場はこの1度に終わったが、慶大に進学すると「四番・一塁」でアマチュア球界屈指の強打者としてさらに評価を上げる。3年春のリーグ戦で打率.500、6本塁打、16打点で六大学リーグ史上6人目の三冠王に。88年に開催されたソウル五輪の日本代表にも選出された。野茂英雄潮崎哲也古田敦也など社会人野球のチームに所属していた選手が中心のメンバーで、大学生は大森、野村謙二郎笘篠賢治の3人のみ。大森は五輪で五番打者を務め、打率.350をマークして銀メダル獲得に貢献する。

 進路が注目されるが、ドラフト前に巨人の1位指名以外はプロ入りしないことを明言する。しかし、「巨人以外はプロ入り拒否」を宣言した男がもう一人いた。上宮高のスター・元木大介(現巨人ヘッドコーチ)だった。巨人は大森を1位指名し、ダイエー(現ソフトバンク)から1位指名された元木は入団を拒否。ハワイに1年間留学し、翌年のドラフト1位で巨人に入団する。

 プロは実力の世界だが、「運」も必要な要素であることを大森に感じさせられる。前年に引退した中畑清の背番号「24」を託され、新人の開幕・ヤクルト戦(東京ドーム)で同点の9回に代打で登場。左中間への鋭い打球でサヨナラ安打の華々しいデビューと思われたが、左翼・栗山英樹(現日本ハム監督)に好捕される。

 188センチ、96キロと恵まれた体格だったが、打撃は柔らかくミート能力も高かった。しかし、首脳陣にスラッガーとして期待され、自身の打撃スタイルを崩してしまう。それでも、二軍では別格だった。本職は一塁だが、三塁にも挑戦した3年目の92年に当時イースタン新記録の27本塁打を放ち、本塁打王と打点王の2冠王に。93年もイースタンで2年連続本塁打王を獲得するが、一軍からお呼びの声がかからない。同年は長嶋茂雄が監督就任し、息子の長嶋一茂も移籍。大森のサード転向計画は消えてしまったのが大きな要因だった。93年オフには中日・落合博満がFA移籍する。大森の力ではどうしようもできないことだった。94年は初めて一軍出場機会がなかった。

近鉄へ移籍し心機一転も


98年途中、近鉄に移籍したが目立った成績は残せなかった


「二軍の帝王」と呼ばれ、一軍が遠い日々。ファームの試合を視察していた他球団の編成は「大森はウチに来れば間違いなくクリーンアップで打率.280、20本塁打を打てる。もったいないなあ」とぼやいていた。年数を重ねると、期待のホープも立ち位置が変わってくる。背番号が32に変わった7年目の96年に25本塁打で3度目のイースタン本塁打王を獲得。一軍でもリーグ優勝を決めた中日戦で本塁打を放ち、日本シリーズ・オリックス戦でも1戦目に代打で同点弾を放ったが、同年オフに清原和博が西武からFA移籍する。外野にコンバートした97年は開幕戦で出場したが結果を残せない。居場所がなくなっていた。

 98年5月に南真一郎背尾伊洋との交換トレードで近鉄へ移籍したが、目立った活躍はできなかった。一軍出場なしに終わった99年オフに戦力外通告を受けて現役引退。プロ10年間で通算132試合出場、打率.149、5本塁打、16打点。ファームで通算120本塁打を積み上げただけに、その才能が惜しまれた。

 大森はその後、巨人のスカウトに転身。選手を分析する深い洞察力と分析力が評価され、12年から育成部ディレクター、16年から国際部課長を務めている。人生はどう転ぶか分からない。ドラフトで因縁があった元木は18年オフ、一軍内野守備兼打撃コーチとして13年ぶりに球界復帰。昨年からヘッドコーチを務めている。大森、元木と立場は違うが、巨人の黄金時代構築に不可欠な存在になっている。

写真=BBM
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