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プロ野球回顧録

捕手のサインが見えない弱視も通算159勝を挙げた「巨人の本格派右腕」は

 

スケールの大きい投球


2年目には新人王を獲得した槙原。若手のころの背番号は「54」だった


 視力はアスリートにとって重要な要素だ。ところが、視力が悪く捕手のサインが見えないため、手でブロックサインを出して配球のやり取りをしていた投手がいた。平成史上唯一の完全試合達成者で通算159勝をマークした巨人槙原寛己だ。

 槙原の剛速球は大府高のときから有名だった。愛知県内では同期の名古屋電気高(現・愛工大名電)・工藤公康、愛知高・浜田一夫とともに「愛知三羽ガラス」と呼ばれ、3年春のセンバツに出場すると、当時の甲子園史上最速の147キロを計測。ドラフトでも注目の存在だったが、「ファンだった巨人か地元の中日以外に指名された場合は社会人野球に進む」と明言。単独で1位指名した巨人に入団した。ちなみに同年のドラフトで、巨人は1位で槙原、3位で吉村禎章、5位で村田真一と大豊作だった。

 1年目は体力づくりに専念して一軍登板がなかったが、2年目の1983年に頭角を現す。開幕から先発ローテーションに入り、プロ初登板となった4月16日の阪神戦(甲子園)で10回無失点の完封劇で初勝利をマーク。このデビュー戦で自信をつけて飛躍する。31試合登板で12勝9敗1セーブ、防御率3.67で新人王を獲得。背番号54の腕は同年代の吉村、駒田徳広と共に「50番トリオ」と名付けられた。

 スケールの大きい投球は日本人離れしていた。84年は終速表示で155キロを計測。「日本人で最初に160キロをマークするのは槙原では」と言われていた。一方で、制球が課題で直球に偏る配球だったことから手痛い一発を浴びることも。85年4月17日の阪神戦(甲子園)でバース、掛布雅之岡田彰布にバックスクリーン三連発を浴びる。この年は4勝のみに終わった。翌86年も前半戦は伸び悩んだが、球宴が終わって迎えた7月25日からの中日との3連戦で野球人生の転機となる出来事があった。篠塚和典がブルペンでスライダーを投げているのを見て、「近くでキュッと曲がる。これだと思って教えてもらいました。わずか数日で自分のものにできたんで、やっぱり俺って天才って(笑)」とスライダーを習得する。

 ツーシームの握りのまま、右ヒジをひねらない投げ方のスライダーは、真ん中めがけて投げると外角ギリギリまで横滑りする。ウイニングショットを手に入れ、8月から9月にかけて2完封、5完投を含む7連勝を飾る。槙原は自身の投球を俯瞰する洞察力も持ち合わせていた。スライダーの曲がりを大きくしたため打者が見逃すようになると、スライダーは見せ球でフォークを決め球にする投球スタイルにシフト。背番号が「17」に変わった87年から3年連続2ケタ勝利をマークした。90年代は斎藤雅樹桑田真澄とともに「三本柱」として投手陣を牽引。92年から4年連続2ケタ勝利、97年も12勝をマークする。

多かった印象の残るマウンド


94年には完全試合を達成。ウイニングボールにキスをする


 槙原の偉業として最も印象深いのが、94年5月18日の広島戦(福岡ドーム)だ。中2日の先発で102球を投げ、史上15度目の完全試合を達成する。普段は冷静な右腕も「夢みたいです。完全試合はピッチャーをやっている人なら、みんなあこがれるものですし……」とお立ち台で声が高ぶっていた。

 勝っても、負けても印象に残るマウンドが多かった。99年6月12日の阪神戦(甲子園)で新庄剛志に敬遠球でサヨナラ打を浴びている。バックスクリーン3連発を含めて伝統の一戦で引き立て役になっている印象だが、阪神戦は38勝10敗、勝率.792と実は相性が良かった。「ここ一番に勝負弱い」と揶揄されているが、黄金時代の西武と日本シリーズで計4試合登板して3勝1敗で2試合が完封勝利、1試合が1失点完投勝利。巨人の先発陣の中で強力な西武打線を最も封じ込め、94年には日本シリーズMVPを獲得している。

 通算200勝の可能性は十分あったが、90年代後半に守護神に回り、00年に右肩痛を発症。生命線の直球が130キロ台まで落ちたことから01年限りで現役引退を決断する。通算成績は463試合登板で159勝128敗56セーブ、防御率3.19。槙原は視力が悪かったため現役時代はコンタクトレンズを使用していたが、捕手や打者がはっきり見えたわけではなかった。しかも、風が強い日は裸眼だったため捕手のサインが判別できず、胸や肩を触るサインを使っていた。このサインが相手球団から見破られたこともあったという。このような事情があったにも関わらず、通算159勝を積み重ねた。圧巻の一言だ。

写真=BBM
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