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週べ60周年記念

昔よくいた大阪のオジさんの死/週べ回顧1972年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

バスを降りた後で死去


表紙は巨人王貞治



 今回は『1972年6月26日号』。定価は100円。

 6月9日から阪神─巨人の3連戦が甲子園で行われた。巨人が首位、阪神が2位での対戦だったが、巨人が2勝1敗で首位を守っている。
 もちろん、甲子園は超満員で、熱狂的な虎ファンのヤジあり、歓声ありで大いに盛り上がり、いつものように、小競り合いもあちこちであった。

 この号の表紙には「死人も出た阪神ファン気質も……」とある。
 その特集記事を少し紹介しよう。
 最初に断っておくが、別に物騒な事件で死人が出たわけではない。

 6月1日、熱心な61歳の阪神ファンのオジさんが、9日からの試合の前売り券を買うため、朝6時の始発のバスに乗ってプレイガイドに切符を買いに出かけた。
 夫人には「朝から並ばんと、売り切れるからな」と言っていたという。
 この方は心臓病が持病だった。バスの中で発作が起こって目的の1つ前のバス亭で降りたらしい。
 昔のオジさんは、いつも、やせ我慢していた。泣き言を言うより、「大丈夫や、大丈夫」といつも強がった。
 この人も、誰にも何も言わず、そこから少し離れたところで亡くなったという話だった。

 長くなるが、この方の奥さんの話を紹介しよう。
「ゴハンより阪神が好きやったんですねん。村山(実)が勝った、江夏(豊)が勝った、言うてはスポーツ新聞を買うてきてスクラップしますねん。
 スクラップがミカン箱にいっぱいあります。村山さんと撮った記念写真やらなんやらたくさんしまってあって、これ、宝物や、言うてましたわ。
 切符もまとめて買うて、近所の人によう配ったこともあったんです。阪神にお金もろてるわけやないのに、なんでそんなことせえへんならんのか、言うたんですが聞かしまへん。
 このごろは阪神がよう勝つもんやから、うれしゅうて、ひとりではしゃいどったんです。負けるとブス―ッとして、ものもよう言わんしね。

 ひところまでお酒が好きでしてん。勝ったら勝ったで、甲子園から帰ってきて、近所の人と夜遅くまで飲むし、負けたらやけ酒や言うて、やっぱり飲むし。
 それがここ2、3年、体にようないと、お酒飲むのもひかえましてん。でも、このごろまた、阪神がよう勝つさかいって、ビールの小瓶1本だけ、晩酌で飲んどったんですわ。

 今年の2月に長男が病気で亡くなくなりまして、4月には次女が嫁ぐやらで、体に無理がきとったこともありましたわなあ。長男に先立たれたんは、よほどショックや思いますわ。
 でも、阪神勝ったからビール小瓶もう1本言うてなあ……。

 まるで阪神のために死んだような人ですわ。好きな阪神のために死んだんやさかい、極楽往生かも知れへん、言うてくれる人もおるんです」

 阪神ファンだけじゃない。こんなオジさんが、昭和にはたくさんいたことを思い出した。

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM

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