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右打者のヤクルト・荒川堯の一本足打法は、なぜうまくいかなかったのか/週べ回顧1972年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

右の一本足はうまくいかない?


ヤクルト荒川堯(中央)


 今回は『1972年6月26日号』。定価は100円。

 開幕から一軍にいたヤクルトの荒川堯だが、攻守のミス(ポカ)が目立ち、二軍落ちしていた。
 それが5月31日に一軍復帰。翌6月1日の巨人戦(後楽園)でスタメン出場すると、いきなりシーズン1号本塁打を放った。
 皆が気づいたのはフォームの変化だ。一本足打法から二本足になっていたのだ。
「打球の飛距離もむしろ前より伸びたくらいです。タイミングが合っている証拠でしょうね。ライナー性の当たりが多いんです。いまは本当にいい感じです」(荒川堯)
 王貞治の師匠でもある父・荒川博と二人三脚で磨いた一本足打法を、なぜやめてしまったのか。

 実は、早くから荒川の一本足打法を「やめたほうがいい」と言っていた男がいる。
 巨人の選手をはじめ、多くのスポーツ選手から信頼され、治療を頼まれていた吉田増蔵接骨師だ。
「あれは右打者だからやめたほうがいいよ。いいかい、人間の体というのは、心臓でも腎臓でも大事な臓器はおおむね左側に寄っているのだ。そういう構造をしているから、どうしても右足一本で立つとバランスが悪いんだ」
 これを荒川博にもよく話していたという。

 ヤクルト・中西太コーチも一本足反対派だった。
「一本足をやっていると外角を攻められることが多いが、一本足は基本的に引っ張りのための打法だ。右打者が外角を攻められると逃げていく球になるので、それに逆らって打ち返すようになるので手首を痛めやすいんだ」
 左打者も左投手なら……と今なら言うかもしれないが、当時は圧倒的に右投手が多かった。

 大洋の青田昇コーチは、いつものように辛らつながら鋭い。
「荒川には一本足が向いていたか向いていないか問題にすること自体がおかしい。王につぐ右の一本足でチームの看板だの、スターだの高望みする。そんなことをするから荒川は伸び悩んでしまったんや。今の荒川はせいぜい2割5、6分、ホームランなら15本程度の打者なんだ。いまの二本足は安定しているから、このままいけばけっこうやれる。そういうこっちゃでえ。今まではオヤジがあまり買いかぶって高望みしとった。そっちのほうが罪やで」

 対して荒川博はこう反論した。
「王は別格とは誰だって今なら言える。だが、あの王だって一本足にしなかったら今のように大打者になっていたか、それは誰にも分からないだろう。堯がこのまま15本かそこらの打者に終わるかどうかも、結果を見てからにしてもらいたいものだね」

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM
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