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背番号物語

【背番号物語】江夏豊「#28」ほか……繰り返された移籍、流浪の左腕。象徴するナンバーは?

 

移籍で変えなかったのは「26」のみ


阪神では入団から移籍するまでの9年間、「28」を背負った江夏


 その昔、巨人に空前節後の黄金時代があった。この21世紀にはソフトバンクも強いが、その無敵ぶりでは当時の巨人に届いていない。1965年に2年ぶりリーグ優勝を果たすと、日本シリーズでソフトバンクの起源でもある南海を下して日本一に。以降リーグ9連覇、さらに9年連続の日本一。いわゆるV9時代だ。薄氷の展開もあったものの、結果的に9年間も頂点に立ち続けたわけだから、当時の巨人と近年のソフトバンクが戦ったら勝者はどちらか、という議論を超越している。もちろん、ペナントレースでも日本シリーズでも9年連続は最長だ。そんな無敵の巨人に牙をむいた阪神の左腕がいた。江夏豊だ。

 巨人がリーグ連覇、2年連続の日本一を果たした66年の秋、このときのドラフトは1次と2次の2度に分けて指名が行われた唯一のドラフトで、その1次の1位で4球団が競合、交渉権を獲得した阪神へ入団した。言うまでもなく阪神は巨人のライバル。江夏は1年目からリーグ最多の225三振を奪うと、2年目の68年にはプロ野球記録にとどまらず、401奪三振の世界新記録を樹立する。このとき、プロ野球新記録は巨人の王貞治から宣言して奪う離れ業。最終的に通算868本塁打を残す王と、緻密に制球された快速球を武器にした江夏とのライバル対決は、当時のプロ野球で最大の見せ場だったといえる。

 そんな江夏が阪神で1年目から背負っていたのが「28」だ。ちなみに、21世紀に発表された小川洋子の小説『博士の愛した数式』にも江夏は登場。主人公は完全数である「28」を背負う選手は江夏しかいない、と語る。数字の難しいことは分からないが、「28」といえば江夏、江夏といえば「28」という時代は、確かにあった。だが、それは唐突に終焉を迎える。3年目からは故障や持病との闘いも始まり、それでも6年連続リーグ最多奪三振、それが途切れた73年には24勝で2度目の最多勝に輝いた江夏だったが、75年オフに球団から25パーセントの年俸ダウンを提示され、「嫌なら出ろ」と言われた。当然、決裂する。江夏は野村克也が兼任監督を務める南海へ移籍して、新たに「17」を背負った。

 だが、すでに体はボロボロだった。先発にこだわる江夏だったが、野村は「リリーフで革命を起こそう」と“説得”。リリーフ専門の投手、クローザーとして江夏は復活を遂げた。野村が監督を解任され、退団したことを受けて、江夏は78年から広島でプレー。ここでは「26」を背負い、翌79年から広島をリーグ連覇、日本一へと導いていく。81年に移籍した日本ハムでも「26」のままリーグ優勝。ともに役割はクローザーで、この「26」が唯一、江夏が移籍で変えなかった背番号だ。西武へ移籍した84年がラストイヤーに。最後の背番号はプロ野球のエースナンバーとされる「18」だった。通算206勝193セーブ、2987奪三振。象徴といえる背番号もファンによって違うだろう。だが、江夏が去ったチームに残された背番号は、江夏の面影を失っていく。

“移籍”した左腕の「28」


広島(写真)、日本ハムでは「26」を着けた


 在籍したのが1年のみで、結果を残せなかった西武の「18」に江夏の印象が薄いのは仕方のないことかもしれない。ただ、クローザー、そして“優勝請負人”としての江夏を象徴する「26」は、広島では左腕の山本和男が後継者となったが、21世紀に右腕の廣瀬純が長く背負って印象が一変している。日本ハムでも85年から左腕の西村基史が11年間と長く着けたものの、21世紀に継承した投手の糸井嘉男(阪神)が外野手に転向してブレーク。糸井が「7」に変更したとき、後継者となったのは内野手の西川遥輝だった。

 さらに阪神では、江夏の存在を否定するかのように「28」は右腕の系譜となっていく。すぐに右腕の長谷川勉が「28」となり、その後は中田良弘が15年、福原忍が18年と、江夏の年数を上回った。だが、皮肉にも「28」は左腕の印象が他のチームへと普及していき、江夏が阪神から去った76年にライバルの巨人で新浦寿夫が「28」でブレーク。翌77年には中日都裕次郎が着けた。パ・リーグでも86年にロッテ園川一美が、翌87年には阪急で星野伸之が背負い、星野はオリックス時代にエースとして君臨している。

【江夏豊】背番号の変遷
#28(阪神1967〜75)
#17(南海1976〜77)
#26(広島1978〜80、日本ハム81〜83)
#18(西武1984)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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