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東海大新主将・門馬大は人生最大のアクシデントを不屈の精神で乗り越えてきた男

 

名将である父からの激励


東海大の新主将は門馬大内野手が務める。実父は東海大相模高・門馬敬治監督である


 名門再建へ、託されたチームリーダーの重責は大きい。昨年10月、複数の野球部員の大麻使用が発覚。無期限活動停止だった東海大が2月1日、全体練習を再開した。新監督には同大学OBの井尻陽久氏が就任。昨年12月18日、日本学生野球協会の審査室会議で、1月16日まで3カ月の対外試合禁止処分を受けた。一連の不祥事により引責辞任した安藤強前監督が退任前、新主将に指名したのは門馬大内野手(4年・東海大相模高)だった。

「OB、応援していただいた方々には、謝ることしかできない。僕たちは、野球で勝つことが恩返しだと思っているので、目標の日本一がモチベーションです。以前よりも、厳しい目で見られる。この現実を受け止めて、変わった姿を、行動一つからでも見せていきたいと思います。勝ち負けもありますが、人として当たり前のことを当たり前に、合宿生活から4年生が中心となり引っ張っていきたい」

 無期限活動停止中は、個人練習のみ。グラウンド、室内練習場を使用することは許されたが、先の見えない日々に、不安が押し寄せてきたという。しかも、野球人生初の主将の大役と、プレッシャーがのしかかってきた。

「苦しい状況だと思うけど、頑張れ!!」

 LINEや電話で激励してくれたのは父であり、東海大相模高で春2度、夏1度の甲子園優勝の実績を誇る名将・門馬敬治監督だった。

「父の野球をずっと見ていた。野球が生活の一部。(ユニフォームの)タテジマはあこがれでしたが、実際に着ると重いものでした」

 長女・花さんは東海大相模高で19年夏の甲子園出場を、女子マネジャーとして支えた。花さんの2歳下の次男・功さんは今年4月に3年生となる一塁手(副主将)で、3月19日に開幕するセンバツ出場を決めている。一方、長男・大は3年間で、甲子園の土を踏むことができなかった。17年夏は県大会決勝で横浜高に惜敗した。

「左にすれば、可能性がある」


 門馬は人生最大のアクシデントを、不屈の精神で乗り越えてきた。東林中1年冬、試合で自打球を左目に当てた。手術を受けたものの、低下した視力は元に戻ることはなかった。

「野球が好き。それが一番。野球から離れる考えはなかった」

 約1年のブランクを経て、相模ボーイズ(硬式)で復帰し、3年春には全国大会に出場した。東海大相模高でも人一倍の努力を重ね、1年秋からベンチ入りし、副主将となった2年秋からは三塁のレギュラー。打席では右目で投球を見やすくするため、オープンスタンスで構えた。三塁守備も打球の感覚をつかむのが難しかったが、工夫を重ねて克服した。

 東海大でも右打席で勝負してきたが、2年生になって、違和感を覚えたという。「右投手の変化球が、見えないんです」。学生コーチの打診を受けたこともあったが、プレーヤーの道をあきらめることはできない。そこで、踏み切ったのが左打席への挑戦であった。

「逃げていても、意味がない。左にすれば、可能性がある。信じてやるだけでした」

 大学2年秋から本格着手。東海大相模高で2015年夏の全国制覇メンバーである2学年上の千野啓二郎(現Honda)、杉崎成輝(現JR東日本)から、左打者の直接指導を受けた。

「最初はバットが振れないですし、当たらない(苦笑)。とにかく、数をこなすだけでした」

 1日500本以上。右打席も並行して、血のにじむような猛練習を重ねた。3年春のリーグ戦はコロナ禍により中止。同秋、スイッチヒッターとして首都大学リーグ戦に出場した。主将となった今春は首位打者と、三塁手としてのベストナイン受賞を目標に掲げるが「個人よりチーム」と、部史上初めて最下位に沈んだ昨秋から巻き返すことしか考えていない。

 夢は高校野球の指導者だ。大学では保健体育科の教職課程を履修し、今年11月には教育実習も控える。あくまでも、将来への準備であり「野球ができるうちは、続けていきたい」と、卒業後は社会人でのプレーを希望する。

「あれだけ注目される高校野球の魅力は、大きいです。そこで監督になり、高校のときには行けなかった甲子園出場を目指したい」

 学生ラストイヤーは「再生の1年」だ。部運営を名実ともけん引し、良き伝統を後輩へつないでいく役割が求められる。父を受け継ぐ、リーダーのDNA。名門・東海大の主将は、門馬に託された宿命であるのかもしれない。

文=岡本朋祐 写真=中野英聡
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