週刊ベースボールONLINE

背番号物語

【背番号物語】別当薫「#25」初の通算1000勝、優勝なしの監督は移籍で背番号を変えない名選手の先駆け

 

“メガネの監督”の現役時代


77年、大洋監督時代の別当。背番号は「50」だった


 別当薫といえば、低迷するチームを率いた監督という印象を真っ先に挙げる人が多いだろう。もしかすると、メガネのCMに出演していたイメージが強いという人のほうが多いかもしれない。これは時代が変わったというより、長い時間が流れたのだから、仕方のないことではある。ただ、プロ野球の歴史を語り継ぐ立場の人間からすると、いささか寂しい気はする。もちろん冒頭の印象も、どちらも間違ってはいない。選手との兼任も含めて、毎日(大毎。現在のロッテ)、近鉄、大洋(現在のDeNA)、広島、大洋を監督として渡り歩いて、通算20年。この間、優勝は1度もなかった。それでも監督として通算1000勝に到達。優勝のない監督として通算1000勝に届いたのはプロ野球で初めてのことだ。

 だが、優勝とは無縁だったこともあり、名将として名前が挙がることも、その采配を評価する声も少ない。ただ、現役時代の名声は圧倒的だった。当時からトレードマークはメガネ。視力は0.4の乱視で、鉄製のメガネで重かったことから、あまり頭の位置が動かない打撃フォームが確立した。その強打を呼び込んだともいえるメガネではあるが、もちろんメガネで名声が集まったのではない。本塁打が外野スタンドに飛び込むようになったのは戦後に入ってからで、これがプロ野球の人気を高めるのに貢献したことは間違いないが、そんな機運を引っ張った1人が別当だった。

 もともとは慶大のスター選手。まだ東京六大学がプロ野球よりも格上で、プロ野球が蔑みを込めて職業野球と呼ばれていた時代で、戦時中の“最後の早慶戦”にも出場している。48年に阪神でプロのキャリアをスタート。このとき背負ったのが「25」だった。1年目から圧倒的だったのが、まずは人気。甲子園では女性ファンが急増するなど、その盛り上がりは10年後の巨人長嶋茂雄が入団したとき以上のものだったという。それまでの人気者は阪神の「10」で紹介した“ミスター・タイガース”藤村富美男だが、若林忠志監督が少年ファンに「誰が投げるのを見たい?」と尋ね、もちろん自分だと思っていた藤村に対して少年たちは一斉に「別当!」と絶叫、藤村がグラブを放り投げる……という、どこか浪花らしい逸話も残る。

 同時に、別当の打棒も藤村を刺激した。トレードマークの“物干し竿”バットで本塁打を量産するようになったのも別当へのライバル心からだった。85年の“猛虎フィーバー”で真弓明信、バース、掛布雅之岡田彰布らの“新ダイナマイト打線”という異名は打線の強力さに吹き飛ばされてしまったような印象もあるが、当時の阪神こそ“元祖ダイナマイト打線”。用具の問題もあって、もともと単打をたたみかけるタイプの打線だったが、別当の加入で一気に重量感が増すことになった。だが、2リーグ分立を機に別当は若林監督に従って毎日へ移籍。阪神の未来が暗転した一方で、毎日は新チームとは思えない勢いで勝ち進んでいく。

監督として率いたチームで


阪神時代と変わらず毎日でも背番号「25」を着けた別当


 毎日でも引き続き「25」を背負い続けた別当は、43本塁打、105打点で本塁打王と打点王の打撃2冠。打率.335、34盗塁もマークして、セ・リーグを制した松竹の岩本義行とともに、プロ野球で最初のトリプルスリーを達成している。毎日はリーグ優勝、日本一。その立役者となった別当がパ・リーグの初代MVPに選ばれた。選手をメーンに初めて指揮を執ったのが52年で、54年には正式に兼任監督となる。

 その後は着実に監督としての比重が大きくなり、4試合の出場に終わった57年に選手を引退。この1年だけは監督ナンバーの「50」を着けたが、それまでは一貫して「25」だった。監督としては59年まで指揮を執り、その後は62年から3年間は近鉄で「35」、67年から6年間は大洋で「52」、そこから1つずつ小さくなって、73年の広島は「51」、最後の大洋では77年から79年まで、ふたたび「50」を背負って采配を振るっている。

 一方、「25」は阪神、ロッテの系譜で尊重された気配はないが、奇しくも別当監督が率いたチームで静かに長距離砲の印象が受け継がれていく。大洋では松原誠が、チームが横浜となってからは21世紀に村田修一が「25」の長距離砲として大成し、ともに移籍した巨人でも変わらず「25」を着けて引退。広島でも21世紀に入って新井貴浩が「25」でブレークすると、FAで阪神へ移籍して別当の系譜に“合流”、広島へ復帰した1年目を除き、最後まで「25」を背負い続けた。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング