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プロ野球回顧録

星野仙一が“日本一の投手コーチ”と称賛した通算165勝右腕・佐藤義則「やっぱり投げるのは大事」

 

先発再転向で増した輝き


阪急、オリックスで22年間投げ続けた佐藤


 ダルビッシュ有田中将大と球界を代表する投手たちを一本立ちさせた名指導者がいる。オリックス、阪神日本ハム楽天ソフトバンクと投手コーチとして各球団を渡り歩き、オリックスを除く4球団でリーグ優勝に貢献。優勝請負人と形容された佐藤義則だ。

 佐藤は22年間、阪急(オリックス)一筋の現役生活だった。黄金時代のチームで入団1年目の77年に7勝を挙げて新人王を獲得。78年に13勝、79年も10勝と順調に勝ち星を重ねたが、ここから試練が。80年は4勝13敗と大きく負け越し、81年1月にぎっくり腰を発症して同年は一軍登板なしに終わる。一時は支配下登録選手を外されたが、82年に4勝13セーブ、翌83年も1勝16セーブと守護神として復活した。

 先発に再転向して輝きがさらに増す。17勝6敗、136奪三振で奪三振王を獲得すると、85年は21勝11敗、188奪三振で最多勝と奪三振王の2冠に。リーグ優勝した西武戦で最多の8勝を挙げるなど中身も濃い。昭和で最後の20勝投手となった。86年も14勝6敗、防御率2.83で最優秀防御率に輝く。伝家の宝刀だった縦に大きく落ちる「ヨシボール」は人さし指と親指で挟み、その間から抜いて投げた。指が短くフォークが投げられなかったために生まれた魔球だった。

オリックス時代の95年にはノーヒットノーランを達成


 オリックスにチーム名が変わった89年以降も先発の屋台骨を支えた。95年8月26日の近鉄戦(藤井寺)ではNPB史上最年長の40歳11カ月でノーヒットノーランを達成。「ピッチャーとして一度はやってみたい気持ちはありました。本当にうれしい」と話す目には涙が見られた。この年は1月に阪神・淡路大震災が発生し、オリックスの本拠地・神戸も甚大な被害に見舞われた。「がんばろうKOBE」を合言葉に特別な思いで戦ったシーズンで佐藤の偉業がチームに勇気を与え、11年ぶりのリーグ優勝を達成した。

 98年限りで現役引退。501試合登板で165勝137敗48セーブ、防御率3.97と立派な数字を残す。「名選手が名指導者になるとは限らない」と野球界には古くからの言い伝えがあるが、佐藤は投手コーチとしても卓越した指導力を発揮する。

「目的意識を持って投げるべき」


09年、楽天コーチ時代


 99年からオリックスの二軍投手コーチを2年間務め、02年に星野仙一監督が就任した一軍投手コーチに就任。指導に当たった井川慶は03年に20勝で最多勝を獲得する活躍でリーグ制覇に大きく貢献した。05年から日本ハムの二軍投手コーチに就任し、新人のダルビッシュ、実績がなかった3年目の武田久など後に主力となる投手の素質開花に一役買う。06年に一軍投手コーチに配置転換され、球団初の2連覇に貢献した。

 09年に楽天の一軍投手コーチへ。田中将大を絶対的なエースに育て上げ、15年からソフトバンクの一軍投手コーチで投手王国を構築する。指導を受けた武田翔太は「ヨシボール」の習得に励み、15年は13勝、16年は14勝とエース格に成長した。18年から再び楽天一軍投手コーチを2年間務めた。さまざまな球団を渡り歩くのは、指導者として「替えが利かない存在」である証左だろう。

 佐藤は各投手のフォームという個性を尊重した上で、弱点を修正する能力が抜群に優れていた。日本ハムに入団した当時のダルビッシュには下半身強化を指令。踏み込んだ左足に体重が乗せられるようになると、直球の球威が増した。

 ソフトバンクの投手コーチ時代に、週刊ベースボールのインタビューでこのように語っている。

「俺の経験では山田久志さんは完全なエースでした。12年連続開幕投手をやっているんだけど、それだけ長い間、信頼され続けていたってことはスゴイよ。いまを見ていると、エースって言われても2、3年で変わっていくよね。それがなぜなのか。俺も聞きたいくらいなんだけど、新聞などの情報を見ていると、勝てるようになったピッチャーって、ピッチングなどの量が減っているんじゃないかな。投げるってことが疎かになっているピッチャーが多いように感じる。勝つことを覚えて、いつでも勝てる、それなりにやっていれば勝てるって思っているのかもしれないね。でも、練習しなかったら落ちていくだけなんだよ。現状を維持したとしても、打者側の研究が進めば、すぐに攻略される。コンディショニングの知識を持つようになって、トレーニング理論も進化している」と論じた上で、こう続けている。

「でもやっぱり投げることは大事。常にいまの自分を上回る技術を得ようとして取り組んでいないと、落ちるのは早い。俺はそう感じるんだけどね。ただ、だからと言ってブルペンで200球も300球もただ、投げ込めばいいというわけでもない。やるのであれば、明確な目的意識を持って取り組むこと。若いピッチャーにはピッチングの締めくくりに『10球中8球ストライクで終了』なんて課題を与えたりするんだけど、中には『お前、何球投げるんだよ』っていうピッチャーもいるよ。でも、『ストライクを投げる』っていう目的意識をちゃんと持って続けていれば、いずれ分かってくるものがあるんだよ」

 名伯楽の言葉には説得力がある。

写真=BBM
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